
この記事では「心の健康づくり計画」について心理職が解説しています。
ネットで閲覧できるサンプルへのリンクもあります。
職場のメンタルヘルスを向上させる。言葉で言うのは簡単ですが、どうやればいいのでしょうか。
目標達成への道のりはやみくもではいけないので「計画」をたてます。職員のメンタルヘルスを保持増進するために、「いつまでに」、「こんな取り組みをするので」、「皆ちゃんとやってください」、と周知するわけです。
そこで参考になるのが、厚生労働省が出している「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(以下「指針」と記載)です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00002.html
この指針には次のように書かれています。
事業者は、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に 推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」 やストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定する必要があります。
また、その実施に当たってはストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタル ヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う 「二次予防」及びメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う「三次予防」が円滑に 行われるようにする必要がある。
これらの取組みにおいては教育研修・情報提供を行い、「4 つのケア」を効果的に推進し、職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、休業者の職場復帰のため の支援等が円滑に行われるようにする必要があります。
指針に準じるならば、組織に対するメンタルヘルス支援としてまずは「心の健康づくり計画」を策定することをサポートすると良いでしょう。
「心の健康づくり計画」と大げさに定めないにしても、計画づくりは重要ですので、準じたものを作成しましょう。
「心の健康づくり計画」を具体的に解説
心の健康づくり計画のサンプル
まずはイメージできるようになるために、以下のリンクから何個か読んでみることをお勧めいたします(上記指針の中にも例が記載されています)。
https://www.lcgjapan.com/pdf/shoshiki658.pdf
※PDFファイルが開きます。
指針には「心の健康づくり計画」に盛り込む内容として以下が挙げられています。
- 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
- 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
- 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
- メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
- 労働者の健康情報の保護に関すること
- 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
サンプルを見たところ、これらの項目通りに記載する必要はなく、これらの内容が含まれていることが重要のようです。
では、これら項目に補足しつつ、具体的にどのような行動をとれば良いかを考えていきます。
心の健康づくり計画の内容
1.事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
例を挙げれば、計画を策定したことを全社集会で口頭で伝えたり、年度代わり等のタイミングで、メンタルヘルス対策をしていくことが会社にとって重要であることや、しっかりとメンタルヘルス対策に取り組むようにすること等の内容を盛り込んだ文書(A41枚でも何でも)を発出したりすることです。
事業者自らが伝え、これからは本気で取り組みますよ、というメッセージを伝えることが大切です。これはメンタルヘルスのみならず、ハラスメントについても同様です。
2.事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
Webで「心の健康づくり計画」のサンプルを調べるとよく出てくるのが、以下のような文言です。
従業員、管理監督者、事業場内産業保健スタッフ、人事労務部門及び衛生委員会の役割を以下のとおりとする。
「心理職」や「保健師」は「事業場内産業保健スタッフ」に入ると思います。私の経験的な感覚ですが、メンタルヘルス対策に関係する人を以下に例示します。
管理監督者
イメージない人は、「課長職以上」を管理監督者と呼ぶと思ってください。
●●課の管理監督者は●●課長であり、その課でメンタル不調者が発生した場合、連絡窓口になったり、通院同行する可能性がある人になります。
健康管理者
メンタルヘルス対策を含む、職員の心身の健康管理をする立場の人です。人事か福利厚生担当部署の課長さんが多いのかなという印象です。
事業場内メンタルヘルス推進担当者/事業場内産業保健スタッフ
心理職はここに該当します。資格的には臨床心理士、公認心理師、産業カウンセラー、産業保健師、衛生管理者、看護師等でしょうか。有資格者がいない組織では、健康管理者が兼ねることが多いようです。
人事労務担当者
人事担当部門の長のことで、配置換え(異動)や採用等、人事の采配をする人です。人事課の課長だと思って良いでしょう。
メンタルヘルス問題において個人や職場(課・チーム)の対応でどうにもできない場合、人事異動をするしかない場面が出てくるので、メンタルヘルス対策を行う上で、連携を密にとる必要がある人物となります。
看護師/保健師
常勤として雇用されている組織は少ないかもしれませんが、身体面は看護師、メンタルヘルスは心理職と役割分担して雇用しているところもあるかもしれません。
人事担当と同様に、強力な連携をとる必要があるポジションです。また、心理職はいないけど、保健師や看護師は雇用されていて、保健師や看護師がメンタルヘルス対策をしているパターンもあるようです。
産業医
言わずもがなの非常に強力なメンバーです。常時労働者数50人以上の事業場では産業医選任の義務があります。概ね以下の役割を担います。
- 心の健康づくり計画の企画・立案及び評価への協力
- 従業員、管理監督者からの相談への対応と保健指導
- 職場環境等の評価と改善によるストレスの軽減
- 従業員、管理監督者等に対する情報提供及び教育研修
- 外部医療機関等との連絡
- 就業上の配慮についての意見
産業医が常駐している場合は心理職がいなくてもいいのかもしれませんが、そんな企業は稀で、週に1回または月に1回来社して、上記のことを行うことが多いようです。
もし心理職が常勤でいれば、不調者に対して即時的に対応できますし、職場環境とメンタル不調の因果を分析できたり、対策にむけた助言ができたり存在になりえます。
いずれにせよ、産業医と事業場内産業保健スタッフには連携が求められます。
3.事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
実際にどんな対策をしていくかという内容の部分であり、非常に重要です。サンプルには以下の事項が記載されています。
(1) 職場環境等の把握と改善
ア 管理監督者による職場環境等の把握と改善
イ 事業場内産業保健スタッフによる職場環境等の把握と改善
(2) ストレスチェックの実施
(3) 心の健康づくりに関する教育研修・情報提供
(4) 事業場外資源を活用した心の健康に関する相談の実施
メンタルヘルス研修に関しては別の記事で解説しておりますので併せてご覧ください。
4.メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
指針のなかに記載のある計画例を踏まえると、契約している外部の精神科クリニックやEAP、無料相談サービスに相談できること等を明記するようです。
また、利用するための方法、連絡先、金額、利用したことで職員に不利益が生じないことも盛り込むといいでしょう。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000153859.pdf
5.労働者の健康情報の保護に関すること
言わずもがなですが、「守秘義務は守りましょう」ということです。また、情報ごとに閲覧できる職員を表にして明示する場合もあるようです。
6.心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
「目標設定」と「評価」は非常に重要なことです。
計画サンプルをいくつか見ているとわかりますが、「メンタルヘルス研修の参加率を90%にする」、「管理職に傾聴スキルを身につけさせる」、「早めに医療機関にリファーする」、みたいな当たり前のことに落ち着くようです。
そこからわかることは、まず「は当たり前のことを当たり前にできる組織にする」、これが大前提だということです。それが達成できた後に、より高度な目標を設定すればいいと思います。
注意も必要です。
例えば、研修に90%参加したからといって、全員寝ていたらどうでしょうか。その効果は全く無いわけです。このような目標は、「研修を受けさせる」という体面的な目標を達成することはできていますが、「メンタル不調の防止に効果があったのかなかったのか」を判定するには不十分です。
そのため、数値で把握可能な目標設定も重要です。
例えば、「ストレスチェックで把握する職場環境のリスクを前年度マイナス●点にする」、「良好な職場にするために肯定的なコミュニケーションを増やす」、「心理職が年度末にアンケート調査を実施し、今年度の計画の達成状況を5段階で評価してもらう」等などです。
これは関係者間で相談して決めると良いでしょう。
心の健康づくり計画について簡単にですがなるべく具体的な行動がイメージできるように書いてきました。
他にも産業メンタルヘルスの記事を用意していますのでぜひご覧ください。ご講読ありがとうございました!