正確な統計かわかりませんが、うつ病等の精神疾患を理由に休職した職員が復帰後に再発する確率は概ね50%だと言われています。ちなみに再度休職した場合、次に復帰するときは約70%が再再発すると言われています。
私の感覚的にも職場復帰支援はすんなりいかないことが多いです。
心理職に限らず、職場の管理監督者や産業医、看護師、人事労務担当者の全員がもっておくべき心構えは、「再発するのは想定の範囲内、しなかったらラッキー」くらいの気持ちで関わることです。
なんとしても定着させようと力が入ると、不調者への関わり方が強引になったり、明らかに再発しているのに、もう少し様子を見ようなどと、判断が甘くなります。また、力を入れて支援しすぎると、再発した際に当該職員への陰性感情が高まり、今後の支援に影響が出ます。
これらの観点から、復職支援においては、適度に「てきとう」にやる方が双方にとって良い意味で気持ちの余裕が生まれ、結果としてうまくいくと私は考えています。
前置きはこれくらいにして、「職場復帰支援の流れ」である、「職場復帰支援プログラム」について解説していきます。
メンタル不調者の職場復帰支援プログラム
厚生労働省に「こころの耳」というサイトがあるのをご存じでしょうか。
メンタルヘルスに関する情報が網羅的に掲載されている情報サイトです。サイト中の「職場復帰のガイダンス(事業者・上司の方へ)」において、復職支援の流れが解説されています。全体像を理解できますので、まずはそちらをご一読いただけると良いと思います。
復職支援の5ステップ(厚生労働省を参考に)
では「こころの耳」の内容を参照しつつ、復職支援の流れ(プログラム)を解説していきます。
《第1ステップ》病気休業開始及び休業中のケア
病気休業開始及び休業中のケアの段階であり、「労働者からの診断書(病気休業診断書)の提出」、「管理監督者によるケア及び事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、「病気休業期間中の労働者の安心感の醸成のための対応」及び「その他」で構成されます。
(厚生労働省 こころの耳)
管理監督者や産業保健スタッフのケアとありますが、私の感覚では、休職中に職場の人間が関わることはあまりありません。
不調者本人は主治医のいる病院に通院しつつ、自宅療養に努め、職場が連絡を取るのは月に1度程度が相場かと思います。もちろん、初期対応時はより高頻度で連絡をとる場合もあります。
また、産業医がいる組織の場合、月に1度来社して、産業医と面談する等のやり方もあるのかもしれません。
「病気休業期間中の労働者の安心感の醸成のための対応」というのは具体的には、
- 金銭面の補償に関する制度の説明
- 「仕事のことは気にせず、今はゆっくり休んでいい」等のメッセージを送ること
を意味していると思われます。
《第2ステップ》主治医による職場復帰可能の判断
主治医による職場復帰可能の判断の段階であり、「労働者からの職場復帰の意思表示と職場復帰可能の判断が記された診断書の提出」、「産業医などによる精査」及び「主治医への情報提供」で構成されます。
(厚生労働省 こころの耳)
まず大切なのは、休職者に対し、「復職の意志が芽生えたら病院に行く前に職場に伝えてください」と言っておくことです。
いきなり復帰の診断書を提出されると、職場の受け入れ準備が満足にできないためです。
ちなみにいきなり診断書を出して復帰しようとする人はよくいます。再発者は復帰プロセスに慣れているので特にこの傾向があります。
- 職員から復帰の申し出がある。
- 職場で受け入れ体制を整える(復帰計画の作成:復帰後のポジションや業務内容、配慮事項等を検討し書面にする)。
- 管理監督者が職員の診察に通院同行し、組織の受け入れ体制を説明の上、診断書を入手。
- 人事的な復職手続き
- 復職
- フォローアップ
主治医は職員の病状経過を把握しているはずなので、監督者が受け入れ体制を説明の上、業務遂行に問題がない程度まで心身が回復しているかを聞いた方が良いです。
主治医の見立てが「復帰可能」であれば、主治医に勤務継続にあたり職場で留意すべき点を聞き、復職支援の参考にします。
《第3ステップ》職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成の段階であり、「情報の収集と評価」、「職場復帰の可否についての判断」及び「職場復帰支援プランの作成」で構成されます。
(厚生労働省 こころの耳)
現実と乖離しやすいのはこの部分です。
主治医の診断後に職場復帰の可否の判断を行うことが書かれていますが、実際のところ、主治医が復職可の判断を出したら職場はほぼ受け入れるしかありません。
もちろん、職場の産業医が復職を認めない場合や、職場が忙しすぎて復職者を迎えることができないといった現実的な事情があれば、復職は延期になることがあります。
また、「職場復帰支援プランの作成」は第2ステップの職員からの申し出があった時点でやっておいた方がいいです。
プランと言うと非常に大げさなものに感じるかもしれませんが、そんなことはありません。
- 短時間勤務(午前勤務等)するかしないか、
- するなら時短勤務をいつまでやるか、
- 復職後の業務内容はどうするか、
- その他の配慮
くらいです。
配慮に関して記載事項は
- 主治医の従い通院させる。有休をとらせる。
- 業務量・質を配慮し、段階的に負荷をかける。
- 本人の了解を得て、疾病の状況、今後の職場での対応を職場内で共有する
等が一般的かと思います。
《第4ステップ》最終的な職場復帰の決定
最終的な職場復帰の決定の段階であり、「労働者の状態の最終確認」、「就業上の配慮等に関する意見書の作成」、「事業者による最終的な職場復帰の決定」及び「その他」で構成されます。
(厚生労働省 こころの耳)
主治医の診断書にて復職可であれば、基本的にはそれに従うことになると考えられますが、注意が必要な場合もあります。
精神科医によっては、患者の意向を尊重した診断書を簡単に書きます。
私も、再発して明らかに状態が悪いにも関わらず、本人が働きたいと申し出たために復職可の診断書が提出された場面を経験したことがあります。
その場合事業者側は、産業医に対し、職員の復帰が早計であること及び実際の心身の状態を説明し、より正確な判断を仰ぐことが必要な場合もあるでしょう。
《第5ステップ》職場復帰後のフォローアップ
職場復帰後のフォローアップの段階であり、「疾患の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認」、「勤務状況及び業務遂行能力の評価」、「職場復帰支援プランの実施状況の確認」、「治療状況の確認」、「職場復帰支援プランの評価と見直し」、「職場環境等の改善等」及び「管理監督者、同僚等への配慮等」で構成されます。
(厚生労働省 こころの耳)
復職後の本人対応の中心は、所属職場の管理監督者や同僚です。一緒に勤務するのは同じ職場の人なのですから。
しかし、心理職も放っておいてはいけません。
定期的なフォローアップ面談は必須だと私は思っています。
本人のガス抜きもなりますし、面談中に職場の上司には言えないストレッサーを口にすることもあります。
面談頻度の目安としては、最低でも月に1回か隔週、それを半年は続けます。
1年間フォローしても良いですし、本人が望めば以後ずっと続けても良いと思います。
面談時間は話すことが特になければ体調、生活リズム、疲労度、職場の配慮(環境調整)が続いているか、服薬コンプライアンス、等々を聞きます。時間は5分~10分のように短くても構いません。
休職に至った要因のなかに「本人の否定的な認知・行動的なパターン」がある場合は、CBTのモデルを使って面談することもあります。
本人の適応度や体調次第ですが、問題を共有し、「自動思考の把握と見直し」や「ホームワーク」をやることもあります。これができるのは心理職・保健師の強みでしょう。さすがに上司はこれはできません。
より詳しく内容を把握したい方はこころの耳の「 職場復帰手引き等の紹介、事例紹介、Q&A、用語解説」ページを参考にしてみることをお勧めします。