こういった疑問にお答えします。
本記事の内容
- なぜ不登校になるのか:心のエネルギー切れ仮説
- お子さんが不登校になってから回復するまでを図解します
- 不登校になりやすいお子さんの特徴(不登校のリスク要因)
記事の信頼性(記事を書いた人)
- 資格:臨床心理士
- 児童精神科、スクールカウンセラー経験あり
私は現在、児童精神科でお子さんのカウンセリングや心理検査を行っており、不登校や発達障害などのお子さんとも数多くかかわった経験があります。
もしまだご覧になっていない方は、先に【重要】不登校支援の結論をお話しします【後悔しない基本の知識】をご覧ください。
この記事では、お子さんがなぜ不登校になるのかをイラストを使って解説していきます。
なぜ不登校になるのか:心のエネルギー切れ仮説
私の今の考えは、お子さんが不登校になる理由は登校を維持するのに必要な「心のエネルギー」がなくなっているためです。
本ブログではこれを「心のエネルギー切れ仮説」と呼ぶことにします。
不登校は様々な要因が複合して起きるので「これ!」と理由を見つけることは難しい場合も多いです。
しかし「心のエネルギー」という概念をつかうと、ひとまず色々と説明しやすいのでこう呼んでいます。
心のエネルギーとは?
では、どのように心のエネルギーが減っていき、どのように回復するのかをイラスト(図)を使って説明していきます。
お子さんが不登校になってから回復するまでを図解します
以下が私の考えるお子さんが不登校になってから回復するまでの図です。
※縦軸が心のエネルギーの量で横軸が時間軸です。
学校生活をしていればどんなお子さんでも失敗や挫折、傷つきなどによって元気がなくなることがあります。しかし、全員が不登校になるかと言えばそうではありません。
多くのお子さんはストレス解消や日々の休養で回復して登校を維持することができます。
それが図の点線枠のところです。
では、なぜ不登校になってしまうのでしょうか。
私は様々な要因が重なった結果、お子さんの心のエネルギー量が「何とか頑張れるライン」を下回ったために不登校になると思っています。
それを示すのが上の図です。
この図を見ると、不登校になりやすいお子さんは2つの特徴をもっていることがわかります。
不登校になりやすいお子さんの特徴2つ
- 心のエネルギーが減りやすい
- なんとか頑張れるラインが高い位置にある(何らかの理由でストレスを感じ取りやすい)
これは私が勝手につくった図なので実際はなんとか頑張れるラインの上を行ったり来たりしつつ、登校を維持しているお子さんもいると思います。
このように図解するとわかりやすい、という意味で作りました。
という親御さんもいるかと思います。
そういうお子さんをどう見立てればよいかというと「なんとか頑張れるライン」が高い位置にある、と理解してみてください。
このように「心のエネルギー」と「なんとか頑張れるライン」で不登校を説明すると、○○期という不登校の段階を全体的に理解できるため便利だと私は思っています。
不登校になりやすいお子さんの特徴(リスク要因)
次に、不登校になりやすいお子さんの特徴をお伝えします。
結論から言えば、心のエネルギーが減りやすく、なんとか頑張れるラインが高いお子さんです。
「なんとか頑張れるライン」が高いお子さんがどういう人かというと表現が難しいですが、気にしやすいお子さんは典型だと思います。
次に、心のエネルギーが減りやすいお子さんについてです。
前提として、私は心のエネルギーが減り方は「生物・心理・社会的要因(リスク要因)」と「きっかけ」の掛け算で決まると考えています。
生物・心理・社会モデルというのは、人を身体の面、心理の面(性格、考え方等)、環境の面から総合的に理解しようという考え方です。
小児科診療ガイドライン[第3版]のひきこもりの章においても以下のように書かれています。
ひきこもり問題というのは、多様な要因が考えられ、単一の原因を追究していくことは困難を生じる。つまり、「生物-心理-社会」という多次元における複合性により現象化していく。とりわけ、ひきこもり問題を考えていく際には、維持要因への着目が有効である
小児科診療ガイドライン[第3版]
【生物・心理・社会的要因】と【きっかけ】を整理した図が以下です。
では、1つずつ解説していきます。
生物・身体要因
これは一言で言うともって生まれたものです。具体的には体格、先天的な病気、知的障害、発達障害などが入ります。
医療機関でよく出会うのが境界知能(概ねIQが80前後)のお子さんです。
知的障害まではいかないものの、平均に比べれは知的に遅れがあり、同年代のなかで適応するのが難しいため不登校のリスクになることがあります。
体格は例を挙げると太っている、背が小さいなどのコンプレックスが影響して人の目が気になることで不登校になるお子さんがいます。
病気では起立性調節障害で朝起きるのが非常につらい、それによって午後から行くと他児童の目が気になるお子さんがいます。
実際に「何で午後から来るの?」「ずるい!」と言われることもあるようです。
ポイントとしては病気自体が理由であることもあるし、病気にともなう悪口や他者の目という「社会的な問題」によってエネルギーが減ることもあるということです。
心理・性格要因
性格も生まれ持ったものでは?というツッコミがきそうですが、人との出会いや経験で変化しうるので別で考えていきます。
これは真面目で神経質、ネガティブ思考などの性格や考え方のことです。
真面目できちっとしていて、完璧にやろうとしたり、期待に過度にこたえようとしたり、こうしなきゃというこだわりがあるお子さんは心のエネルギーが減りやすい典型例です。
他にも、精神的に年齢より幼く「別にいかなくても良いでしょ」と短絡的に考えてしまうお子さん、我慢が苦手で甘えているように見えるお子さんも中にはいます。
環境要因
これは本人に影響を与える周りのこと全てです。
例えば両親が不仲で家にいるだけで疲れる、習い事が多すぎる、相性の悪い担任の先生、友人関係が乏しいなどがここに入ります。
親御さんの関わりもここに入り、過度な期待や干渉がお子さんの心のエネルギーを減らす要因としてよく挙げられます。
きっかけ
これは実際に起きた、本人にとってネガティブな出来事です。
例えば何かしらの失敗体験、友達との不仲、学業上の挫折、教師からの叱責、いじめ、最近ではコロナの罹患などもあり得るかもしれません。
本記事のまとめ
図でも書きましたがこのモデルで説明すると仮に「リスク要因」が小さくても「きっかけ」が大きければ心のエネルギーが大きく減って不登校になりえると言えます。
また、「きっかけ」はささいで小さくても「リスク要因」が大きければ同じようにエネルギー切れを起こし不登校になり得ると捉えることができます。
例えば、何の問題もなく登校していた子が卑劣ないじめにあえば、元気がなくなって不登校になることがあるでしょう。
また、常にストレスフルで緊張したお子さん(高リスク児)が一見ささいに見える失敗(きっかけ)で不登校になることもあるでしょう。
このモデルを使って再登校を支援するとしたら方針は以下となります。
リスク要因を減らし、心のエネルギーを十分に貯め、そのうえで再登校のきっかけを作る。
モデルの穴もあるかと思いますが、参考になれば幸いです。
以下の記事が今の私の不登校支援決定版です。
参考文献
- 神村 栄一(2019). 不登校・ひきこもりのための行動活性化―子どもと若者の“心のエネルギー"がみるみる溜まる認知行動療法
- 諸富 祥彦(1999). 学校現場で使えるカウンセリング・テクニック(下 ):問題解決編・10の法則
- 五十嵐 隆(編)(2016). 小児科診療ガイドライン―最新の診療指針
- 齊藤万比古(2016). 増補 不登校の児童・思春期精神医学