心理検査

【最新】WISC5の結果の見方と解釈【WISC4からの変更点】

今度子どもが病院でWISC5(ウィスクファイブ)という知能検査を受けることになったのだけどどんな検査なのだろう…何がわかるのかしら…
何年か前に子どもがWISC4(ウィスクフォー)という発達検査をしたけど、今回はWISC5をやったと説明された…。視空間とか流動性推理とか名前が難しくて説明がよくわからなかった…。WISC5になってIQが下がることってあったりするのかな…

こういった疑問にお答えします。

本記事の内容

  1. WISC5の検査内容、WISC4からの主な変更点
  2. WISC5の結果の見方を5つの指標得点ごとに解説
  3. WISC5に変更になってIQが下がったりしないか、そもそもなぜ指標が変わるの?

 

私は医療機関でWISC4を含め、心理検査を実施して結果をお伝えしています。

勤務先ではまだWISC4を使用しているため、WISC5を実践で使ってはいませんが、検査用具自体は確認した上でこの記事を書いております。

WISC5は発売してまもなく、WISC4から移行が始まるのはもう少し先のことだと思いますが、すでにWISC5で検査を受けた方もいるかと思います。

本記事では、初めて検査を受けた方にむけて、そもそもWISC5で何がわかるのかをまずお伝えします。

また、数年前にお子さんがWISC4を受けて、再評価のために再度知能検査したらWISC5になっていてびっくりした!という親御さんにむけて、変更点やIQが変わることはあるのか?について解説していきますので、参考にしてみてください。

 

WISC5の検査内容、WISC4からの主な変更点3つ

WISC5の検査内容

WISC5は「知能検査」という心理検査の1種です。

 

WISC5では主に以下の3つを評価します。

  1. ご本人の全体的な知的能力(全検査IQ)
  2. 言語理解、視空間流動性推理、ワーキングメモリー、処理速度という5つの個別の能力(指標得点)
  3. 5つの能力のバランス

 

WISC4からの主な変更点(受検者に関係するものに限定)

主な変更点は以下の3つです。

  1. 「知覚推理」指標が「視空間」と「流動性推理」に分かれた
  2. 「ワーキングメモリー」が聴覚的短期記憶だけでなく、視覚的短期記憶も評価するようになった
  3. 5つの補助指標ができた

※本記事では解説をシンプルにするために③5つの補助指標については書いていません。

 

変更点①:知覚推理が視空間と流動性推理に分かれた

WISC5最大の変更点はWISC4の「知覚推理」指標が「視空間」指標と「流動性推理」指標に分かれたことです。

これによってWISC4は4指標でしたが、WISC5では5指標になりました。

知覚推理でもわかりづらい名前なのに「流動性推理」ってさらにわかりづらいと感じた方もおられるかと思います。

検査を実施する私ですら感じます。次の章で視空間と流動性推理について詳しく解説しますのでもう少し読んでみてください。

【主な変更点1】
WISC4の「知覚推理」がWISC5で「視空間」と「流動性推理」に分かれた

 

変更点②:ワーキングメモリーが聴覚的短期記憶だけでなく、視覚的短期記憶も評価するようになった

WISC4のワーキングメモリーは主に耳から聞いた情報の一時的な記憶力を評価していましたが、WISC5からは目で見た情報の一時的な記憶力についても評価するように変更になっています。

そのため、視覚処理の得意・不得意によってWISC4の時と比べてワーキングメモリーの結果が多少は変わる可能性があります。

【主な変更点2】
ワーキングメモリーが「聴覚的短期記憶」だけでなく「視覚的短期記憶」も評価するようになった。

 


では、具体的に5つの指標を解説していきます。

WISC5の結果の見方を、5つの指標得点ごとに解説

はじめに

それぞれの指標はIQという数値で表されます。

IQは100が同年代の中で平均となるように作られています。100を基準としてそれより高いか低いかで能力の高低を判断します。

どこからが高くてどこからが低いのかは【簡単】WISC検査のIQの平均値とは?【小学生も中学生も同じ】をご覧ください。

指標1:言語理解(VCI:Verbal Comprehension Index)

言語理解は、ことばを理解したり、説明する力です。

  • 高い場合:言語情報を正確に理解したり、伝達することができる。語彙や知識が豊富。など
  • 低い場合:語彙力に乏しく、抽象的な言葉や難しい言葉の理解が難しい、知識量や社会的な常識力などに乏しい、自分の言葉で説明するのが苦手。など

言語理解はWISC4から下位検査が一部変わっていますが、ほとんど変更がありませんので意味していることは同じだと思ってよいかと思います。

 

指標2:視空間(VSI:Visual Spatial Index)
読み方:ビジュアル スペーシャル インデックス

視空間は、空間にある物を把握・認知する力です。WISC5で新しくできた指標得点になります。

具体的には、物体のある場所、形、大きさ、向き、物体どうしの位置関係などをすばやく正確に認知する力だと思ってよいかと思います。

  • 高い場合:物体の形や大きさ、位置関係などの特徴を素早く正確に把握できる、図形や設計図などの理解が得意、視覚的な記憶力が優れている。など
  • 低い場合:物体の形や大きさ、位置関係などの特徴を把握するのが苦手で遅い、図形や設計図などの理解が苦手、視覚的な記憶力が低い。など

特徴だけ言われてもわかりづらいと思いますので、現実場面の例を挙げます。

  • 人物や風景などの絵を描く(もの同士の位置関係の把握、視覚的な記憶を思い出すなど)
  • 部屋を整理する、家具を配置する(何がどこにあるのかの把握、物がスペースに入るのかイメージなど)
  • 地図や設計図などの正確な理解
  • 算数や数学の図形問題を解く
  • 仕事で言えば全般的なデザイナー、CADエンジニア、インテリアコーディネーター、イラストレーターなどは高いと思われる。
  • スポーツでも、野球で「守備がライトよりだな」とか、サッカーで「ディフェンス上がってるな」などを把握する

 

指標3:流動性推理(FRI:Fluid Reasoning Index)
読み方:フルーイッド リーズニング インデックス

流動性推理を一言で言うのは難しいので、二言で言わせてください。

  1. 図や絵柄などの非言語情報の特徴を把握し、それら特徴の関係性や規則性(パターン)などを察する力(推理する力)。
  2. 結果として、知識や経験では解決できない、初めて見た問題や場面状況で、どう行動すべきかというアイデアを生み出す力(新奇場面での問題解決力)。

 

イメージできますでしょうか?

  • 高い場合:個々の出来事の関係性や共通点を見抜くのが得意(抽象化)、パターンや規則性を見抜くのが得意、予想外の臨機応変な対応が得意、計算など数量的な思考が得意、応用力が高い。など
  • 低い場合:個々の出来事の関係性や共通点を見抜くのが苦手、パターンや規則性を見抜くのが苦手、予想外の臨機応変な対応が苦手、計算など数量的な思考が苦手、応用力が低い。など

 

こちらも特徴だけ言われてもわかりづらいと思いますので、現実場面の例を挙げます(一例です)。

  • 初めてで経験したことのない場面、準備していなかった場面でうまく立ち回る
  • 新しいアイデアを創造する(これとこれを組み合わせたら面白いかもしれない、という発想力)
  • 算数や数学の問題を解く
  • 物の特徴を捉えて種類分けする(カテゴリー分け)
  • フェルミ推定など、未知の問題にチャレンジする

※推理には言語力も関係してくるため、FRIだけで上記を説明できるわけではありません。あくまでFRIが強く影響する部分とお考え下さい。

 

流動性推理(流動性知能)」は知能研究の歴史でも非常に有名な2大概念の1つです。

ちなみに、2大概念のもう1つは「結晶性知能」であり、一言で言えば、学習で身につけた(覚えた)知識や技術のことです。WISC5では言語理解が結晶性知能にあたります。

大雑把な分け方ですが、言語理解が高く流動性推理が低い場合は秀才タイプで、言語理解が低く、流動性推理が高い場合はひらめきタイプと言えるかもしれません。

両方高い方は要するに頭がいい人です。誤解しないでいただきたいのは、結晶性知能と流動性知能に良い悪いはないということです。

 

指標4:ワーキングメモリー(WMI:Working Memory Index)

耳から聞いた情報や目で見た情報を一時的に記憶しつつ、その情報を使って頭の中でさまざまな処理をする力です。

  1. 高い場合:長い指示や説明を聞いても記憶しつつ作業できる、見聞きした情報を細かいところまで覚えている、注意力や集中力が高い、あれやこれや考えながら作業できるのでミスが少ない など。
  2. 低い場合:いろいろな面で忘れやすい、指示や説明が長いと最初や最後など部分的で大雑把な記憶になってしまう、細かいところを見落とす、注意力や集中力が低い、ケアレスミスをする、考えながら(メモリーしながら)作業する力が弱いので衝動的になる など

WISC5からは聴覚的短期記憶だけでなく、視覚的短期記憶も評価するようになりました。

補足ですが、ワーキングメモリーはADHD症状と関係が深いと言われています。ADHDのWISC特徴については【ADHD編】WAIS/WISC結果の特徴4点【対策も解説】という記事もありますので良かったら参考にしてください。

 

指標5:処理速度(PSI:Processing Speed Index)

目で見た情報を素早く正確に処理して作業する速さです。

  • 高い場合:ルーティンや単純作業をテキパキとこなす、書字が速くて正確、目で見たものの識別が速くて正確、集中の持続力が高い、手先が器用。 など
  • 低い場合:考えることや手先を動かすことなど色々とゆっくりで遅い、見たり聞いたりしてから判断や判別に時間がかかる、集中の持続が難しい、手先が不器用。 など

処理速度が遅いお子さんの場合、同じ作業をヨーイドンでやると、他の子に比べてなかなか終わらないことが多いです。

時間制限がある場合に力が発揮できないことがしばしばあり、学習やコミュニケーションなどさまざまな面で生きづらさに影響しやすいと言われています。

ASDやADHDとも関連が深く、処理速度指標の低さは発達障害を見立てる1つの指標になります。ASDとWISCの関連については【ASD編】WAIS/WISC結果の特徴3点【アスペルガー含む】も参考にしてみてください。

 

全検査IQ(FSIQ:Full Scale IQ)

ご本人の総合的な知的能力の評価です。上記5つの指標得点をもとに算出されます。

FSIQはお子さんの総合力を把握するのに役立ちますが、各指標にバラツキが大きい場合、全検査IQの解釈はあまり意味がないことがあり、解釈は慎重に行う必要があります。

例えば、FSIQが100(平均)であったとしても、言語理解120・処理速度80といった大きな差がある場合、全体が100あるから一般的なお子さんと同じ、という見方は誤った理解につながります。

このように5つの力と総合力を評価できるのがWISC5の特徴です。

 

WISC5に変更になってIQが下がったりしないか、そもそもなぜ指標が変わるの?

WISC5に変更になってIQが下がることはあるのか

WISC5になったことのみが原因でIQ下がることはほぼ無いと思われます。

根拠としては、WISC5公式の「理論・解釈マニュアル」に記載されているWISC4との相関係数が挙げられます。

100%の相関ではありませんし、下位検査が変更になった指標があるため、WISC5になった影響が全くないかと言われたら断言はできません。

知能検査の結果は本人の成長や受検時の精神状態・体調など、さまざまな影響をうけますので、総合的に考えていく必要があります。

なぜ指標が変わるような変更が生じたのか

詳細な説明は私でも理解するのが難しいのですが、簡単に言うと、「知能ってどんなもの?」という研究が進んで理論的な基盤が変わったことや、発達評価を適切にするにはどうすれば良いか、現場で役に立つにはどうすれば良いか、などを専門家の先生が考えた結果、このような変更になったとお考えください。

読み取る側にとっては多少なりとも負担ではありますが、適切に使えばよりお子さんのためになる変更が加わったと捉えることもできます。適切に理解して支援に活かせるように努めていきたいと思います。

解説は以上となります。

最後に、お子さんの行動の全てを知能だけで説明することは不可能、ということはご理解ください。ご本人の性格や経験など、さまざまなことを総合的に考慮して、お子さんをみていくことが大切です。

5つの指標得点とWISC4からの変更点のまとめは以下です。

5つの指標得点

  1. 言語理解:言葉を理解、説明する力
  2. 視空間:空間にある物を正確に把握・認知する力
  3. 流動性推理:非言語情報の特徴を把握し、関係性や規則性などを察する力
  4. ワーキングメモリー:見たり聞いたりした情報の一時的な記憶力
  5. 処理速度:単純作業を素早く正確にこなす力

 

WISC4からの主な変更点3つ(受検者目線で知っておきたいことに限る)

  1. 知覚推理が視空間と流動性推理に分かれた
  2. ワーキングメモリーが聴覚的短期記憶だけでなく、視覚的短期記憶も評価するようになった。
  3. 5つの補助指標ができた。

※上記③はこの記事では解説していません。

  • この記事を書いた人

モトセ

臨床心理士です。最近は不登校支援に力を入れています。2022年4月にブログをリニューアルしました。お気に入りやtwitterフォローお待ちしています。

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