
こんな疑問にお答えします。
本記事の内容
- 発達障害の診断で医師が診る3つのポイント
- ADS(自閉スペクトラム症)におけるWAIS結果の特徴3点
- ASDと診断されたらやれると良い3つのこと
私は医療機関で心理職として勤務し、日々医師の先生と情報交換を行っています。
年間100件以上の心理検査を実施してるので、発達障害と診断された大人の方の検査も数多くとってきました。
大人でも子どもでも発達障害に特徴的な結果は概ね同じですので、WAISはWISCと読み替えてもらって差し支えありません。また、ASD(自閉スペクトラム症)はアスペルガー症候群を含む名称です(診断基準(DSM)が変わったことでアスペルガー症候群という言葉は正式名称ではなくなりました)。
では、解説していきます。
発達障害の診断で医師が診る3つのポイント
医師は発達障害について、主に以下の3点から総合的に判断して診断をします(実際に医師に聞きました)。
- 幼少期から現在にかけての問題行動のエピソード
- 診察でご本人と関わった際の印象(行動観察)
- 知能検査や性格検査などの心理検査の結果
詳しくは以下の記事をご覧ください。
>>WISCで差が大きいと発達障害なのか?【医師の判断基準3点】
ASD(自閉スペクトラム症)におけるWAIS結果の特徴3点
ASDの主な症状は「コミュニケーションや対人関係の持続的な障害」「限定された行動、興味、活動」「感覚過敏」です。
代表的なASDの症状
- コミュニケーションが苦手だったり一方的
- 空気を読めない発言
- 比喩、冗談、皮肉などを理解できない(言葉通りに受け取る)
- 特定のことにこだわりが強い
- 決まったパターンを好み臨機応変な対応が苦手
- 音やにおいに敏感
WAISの結果では以下の3点がしばしば特徴として挙げられます。
- 得意・不得意の差が大きい(頻出パターンあり)
- 処理速度が他の指標に比べて低い
- 常識的な知識や社会のルールに疎い
※特徴は一例であり全てではありません。また、必ず表れるとは限りません。
得意・不得意の差が大きい(頻出パターンあり)
ASDの方は得意・不得意が明確である場合が多く、WAISの指標間に差が出やすいと言われています。中でも頻出なプロフィールパターンはN型と逆N型です。
N型とは知覚推理と処理速度が高く、言語理解とワーキングメモリーが低いプロフィールのことです。「聴いて考える」より「見て考える」方が得意な「視覚優位」と呼ばれるタイプです。
N型プロフィールの例
ASDの方は意味ではなく感覚やイメージで物事を捉える力が高いことが多く、それが知覚推理や処理速度という「見て考える」系の指標の高さにつながりやすいのです。知覚推理のみ突出して高い場合もあります。言語理解が低いため、コミュニケーションの質的障害が強い方が多い印象です。
知覚推理のみ高い場合の例
逆N型は言語理解とワーキングメモリーが高く、知覚推理と処理速度が低いプロフィールのことです。
「見て考える」より「聴いて考える」方が得意な「聴覚優位」と呼ばれるタイプです。
ASDの方は視覚優位のため知覚推理が高くなりやすいと言われていますが、知覚推理が低く言語理解が高いパターンもあります。
逆N型プロフィールの例
逆N型の人は言語レベルが高く、物知りで、自分の興味のあることを一方的に話すような方に多い印象です。状況を把握して臨機応変に素早く対処する力が弱いため、空気が読めないことで不適応につながることがあります。
処理速度が他の指標に比べて低い
ASDの方は実行機能が低いと言われており、特に処理速度が低くなる傾向があります。
私自身検査をとっていて、処理速度の低さと発達障害の診断は関係が強いと感じます。というより、処理速度の低さは仕事のパフォーマンスの悪さといった現実的な不適応に直結するため、ご本人が問題視され、医療機関の受診に繋がりやすいのかもしれません。
処理速度が低い場合の例
ASDの方は全体よりも部分に注目しやすい特性があり、それが作業中の注意力や切り替えの悪さに影響し、結果的に処理速度が低くなることが多いように感じます(情報処理のスピードが遅いこと自体がASDの特性なのかもしれませんが)。
同じく実行機能であるワーキングメモリーが低くなるケースもありますが、ASDの方は機械的な暗記が得意な場合があり、処理速度に比べると低さは目立たないように感じます。
常識的な知識や社会のルールに疎い
限定的な興味関心が強いASDの方は自分が心惹かれないものに全く関心がわきません。そのため、社会的に常識と言われている知識や約束事に疎く、WAISの下位検査の結果に影響することがあります。知識量は言語理解指標に含まれます。この場合、語彙力は問題ないのに知識量だけやたら低い結果になります。
もちろんASD特性でなく、単純に学生時代の学習が足りないために知識量が低いケースもあります。
以上3点お伝えしました。
発達障害と診断されたらやれると良い3つのこと
自分の意志で医療機関を受診された方は発達障害と診断されると納得し、安堵される方が多いようです。これまでの人生で直面した苦労の数々に「発達障害」という理由付けがされることで決着がついたと言っていた方もいました。
発達障害と診断された方は自分の生活を振り返り、失敗しないような工夫を考えることを目的として医師にカウンセリングを勧められる方もいます。私はそういう方には大人の発達障害サポートの要点として以下3点をお伝えします。
- 職場や家庭の環境調整
- 本を読んで自己理解を深め、失敗しないように工夫する
- カウンセリングで試行錯誤を振り返る
職場や家庭の環境調整
発達障害であることだけでなく、具体的な得意・不得意を職場の上司に伝え、部署や業務分担を自分のやりやすいものに変えてもらうといった配慮(合理的配慮)を求めることです。
苦手なことは努力や工夫して見えづらくすることはできますが、治せるわけではありません。向いてない業務をしている場合、適応を改善するのは無理ですので、職場の環境調整はほとんど必須だと思います。
特にASDの方はコミュニケーションが難しい場合が多く、上司に対応を相談するのも困難(なかなか伝わらない)なことが多いようです。職場に産業医や保健師がいる場合は伝え方を一緒に考えるなど、協力していけると良いでしょう。
本を読んで自分の特性を理解し、失敗しないような対策をする
大人の発達障害サポートの基本は「なぜこういうことをしてしまうのか」という内省(振り返り)ではなく、生活全般で失敗やストレスを減らすための現実的な工夫を探して実行することです。
子どもと違い、大人は自分で本を読んで対応策を考えることができます。幸いなことに、発達障害には先人たちがたくさんいて、関連する書籍もたくさんあります(むしろたくさんありすぎてどの本を選べばよいかわからない)。
私は「人生の攻略本」ですよと説明しており、多くの方が納得してくださいます。本は読者の方の好みがあるので本屋さんで立ち読みして決めたら良いと思いますが、以下の司馬先生の本は漫画形式で短く読めてお勧めです。
以下の本はASDをADHDと比較して説明してくれたり、チェックリストがついていたりとASD・ADHD両方の理解に役立ちます。例えば同じマルチタスクが苦手でも両者でどう違うのかなども書いてあります。ただし、対策についてはあまり書いてないです。
個人的には以下の本が対策本で読みやすかったです。
支援者の方には以下の本が心からおすすめです。個人的に一番読みました。
カウンセリングで試行錯誤を振り返る
対策方法がわかっても実際にやってみるとうまくいかないことは臨機応変が苦手なASDの方によく見られます。
大切なのは1人で悩んで行き詰まらないことです。できれば専門家の方が的確なアドバイスがもらえるため、カウンセラーや産業医に相談することをお勧めします。どうか無理しないでください。
WAISの他にも心理検査の記事がありますので良かったらご覧ください。