精神分析

精神分析的なカウンセリングでは何をするのか|転移・逆転移・解釈・抵抗・洞察

フロイトは人の無意識に着目し、人間理解のための様々な概念を作り上げてきました。

フロイトはもともとヒステリーの研究から出発し、お話しをするだけで患者が変わるという、ということを見出した人です。ではそのお話であるセラピーでは何をやっているのでしょうか。

今回は精神分析的心理療法の概要についてお伝えしたいと思います。

精神分析的心理療法(精神力動的心理療法)

どのセラピーでも言えることですが、精神分析のセラピーで特に重要となるのが「治療構造」と呼ばれるものです。

治療構造

時間、場所、セラピストが同じであるといった条件や、クライアント・セラピスト間の交流を規定する面接のルールといった基本的な枠組みを治療構造と言います。

これは面接の外枠のことであり、これがあることによって、クライアントが安心・安全に自分を表現できると感じる場がつくられます。

セラピーの基本原則

精神分析のセラピーはほかのセラピーに比べて厳しいルールが存在します。
これは、恐らくこのセラピーがクライアントの過去に深く入っていくこと、それによってクライアントが不安定になったり、セラピストと親密になりすぎるといったある種のリスクが高いからです。

自由連想

これは心の中に思い浮かぶことをそのまま語ることです。

禁欲規則

どんな空想や願望が浮かんでも、それを実際に行動に移してはならないという規則のことです。

セラピーの進み方

では実際のセラピーで行われることについてです。

基本的にセラピーは、クライアントが自由連想を行うことで生じる無意識の転移を解釈することで進んでいきます。

転移(transference)

転移とは、かつての自分にとっての重要な対象に対する感情や反応を、別の対象に移して反復することを意味します。

精神分析のセラピーでは、過去の重要な他者への感情や反応を目の前にいるセラピストに移して反復していると捉え、その感情や反応である「転移」を理解することが重要となります。

転移はそれ自体が目的ではなく、治療の外部での重要な関係を理解するのを助ける手段の1つです。

陽性転移と陰性転移

セラピストに向けられた感情が信頼や愛情、尊敬、理想などの場合を”陽性転移”と言い、憎しみ、恨み、嫌悪、反抗、敵意などの場合は”陰性転移”と言います。

しかし、陽性転移の裏には必ずと言って良いほど陰性の転移も隠れているものであり(例えば好きの裏には攻撃性があったり)、セラピストは両面があると思って見ていきます。

逆転移(countertransference)

これはセラピスト側に起こる転移のことです。

セラピストも人間なので、クライアントと面接を重ねる過程でセラピスト自身の内面に生じる過去の感情をクライアントに移し反復することがあります。逆転移はクライアントに対する無意識的反応の総体のことです。

クライアントからの転移に対する逆転移もありますし、そもそもセラピストが抱いている他者との関係をクライアントに転移する逆転移もあります。

極論ですが、例えばクライアントがセラピストの好みのタイプの人だったりすると、その感情をクライアントに移してしまったりすることもあるかもしれません。

セラピスト自らが感情に押し流されてしまっては共同作業が成り立たないので、セラピストは逆転移に注意を向け、たえず検討することが必要となります。

解釈

一連の転移状況の理解を言葉にして、クライアントに伝えることを解釈といいます。

もう少し詳しく言いますと、クライアントがそれ以前は意識していなかった心の内容や、自分のあり方について、自ら了解することができるように、またそれを意識させるために行う言語的な理解の提示、あるいは説明のことを指します。

無意識的な心の力動を意識してもらうこと、と言えるでしょうか。

過去の重要な対象との間で起こった体験や症状、訴えとつながる体験の言語化をもとに、今ここにあるセラピストとの関係で展開していることであるという観点から、クライアントの心的状況の理解を促す介入の1つとなります。

抵抗

クライアントはそもそも変化への動機を持っているものの、ほとんど必ず変化への抵抗があり、治療中に現れるクライアントの変わりたくないという心の動きを抵抗と言います。

例えばセラピーに遅刻したり、考えが浮かびませんと言ってセラピーを進めないようする行為などがそれにあたります。

自己を洞察していく際には自分の見たくないところも見なければならず、安定を望む人間は時に抵抗することでセラピストに対抗することがあります。精神分析に限らず、どのようなセラピーにも出てくるものだと言われています。

大人の場合は「抵抗しているようですね」等と言って言語的に抵抗に触れていくこともありますが、子どもとのセラピーの場合は、言語的にアプローチできないので、治療同盟という繋がりを作っていくことで、抵抗を解消していきます。

洞察(insight)

これはようは中を見るということで、わかる・理解するという意味です。

セラピストによって発せられた言語的解釈に促され、クライアントが自らの気づきに至る過程とも言えます。

この理解には絆、情動などの”情緒的理解”と、知識、認知的な解釈といった”知的理解”に分けられます。

クライアントが心理的問題の核心がどこにあるのかというのを知的に、わかっているというふうに理解することもありますが、それだけでは改善には向かわないことが多いと言われています。身体的、情緒的な洞察を通じて理解していくことで、腑に落ちていくようになることが多いようです。

情緒的な絆

セラピーが進み、解釈や洞察を通じて相互に交流する中で、クライアントの中に生じるここは安心・安全な場であるとう認識はクライアントとセラピストとの間に情緒的な絆が出来上がっているために生じるものです。

精神分析のセラピーでは、解釈を通じた知的洞察だけでなく、治療者との相互交流という情緒的絆も重要視します。

■まとめ

自由連想によって治療中に現れる無意識の抑圧された過去の重要な他者への転移を解釈し、言語化して返すことで「あー、そういうことだったのか」という情緒的な体験や腑に落ちる感覚(情緒的洞察)を生み出す。それによって現在の症状として出ている抑圧や葛藤が解決に向かうという、のが精神分析のセラピーの一般的な流れと言えます。

もちろん、セラピストはクライアントとの関わりから、自我や超自我の発達段階、退行した先がどこの発達段階であるかを考慮して、どこらへんの時期で欲求が満たされなかったのかなど、様々なことをアセスメントしています。

初期の段階ではこの解釈が指示的で診断的であるとの批判もあったようですが、今はもっと柔軟なようです。現在より過去を、意識よりも無意識の動きに着目するセラピーであると言えるでしょう。

  • この記事を書いた人

モトセ

臨床心理士です。最近は不登校支援に力を入れています。お気に入りやtwitterフォローお待ちしています。 noteでは不登校のお子さんに対する具体的な関り方をプログラム形式で書いています➝noteはこちら

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