職場のメンタルヘルス

【上司必見】ADHD特性がある部下への対応方法【鍵は指導記録】

職場でADHDの特性がある部下がいて困っている…。どうやって対応するのが良いのだろう…

こういった疑問にお答えします。

本記事の内容

  1. 発達障害とADHDの予備知識
  2. ADHD特性がある部下に対する上司の対応方法

 

記事の信頼性
私は以前、組織内で心理的支援をしていた臨床心理士です。メンタルヘルス研修の企画・運営経験もありますし、講師経験もあります。

この記事ではADHD(注意欠如・多動症)が疑われる部下に対する上司の対応方法について書いていますので、読むことで「仕事の教え方」「指示の伝え方」などを知ることができ、落ち着いて対応ができるようになります。

本題の前に発達障害とADHDについて説明します。既に知ってる、という方は飛ばして次の章から読んでください。

発達障害とADHDの予備知識

「発達障害」はいくつかの疾患を含んだ「疾患のまとまりを指す言葉」です

具体的には「注意欠如多動性障害(ADHD)」、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」、「限局性学習障害(LD)」などが含まれます。

「スポーツ」の中に「野球」や「サッカー」、「バスケットボール」などがあるのと同じ感覚です。

発達障害による症状は生まれながらの特性

余談ですが、私はこの「発達障害」という言葉が曖昧で理解しづらいと思っています。もし「左右の脳アンバランス障害」みたいな名前であれば、「なんか大変そうだな」「得意不得意ありそうだな」と理解が深まるような気がします。

もう1点。脳の機能障害は「はたから見て目に見えない」ことも理解が難しい要因だと思います

例えば仮に、左の腕と脚が20cm短い病気があったとしたらどうでしょう。恐らく一般的な人よりは早く走るの難しいです。ですが座って右手で字を書くことは普通にできますよね。それなら動く仕事は控えて書く仕事するように配慮しましょう、となるはずです。

でも脳は目に見えないから、やらせてみないと何ができて、何ができないのかわからないし、周りがどんな配慮をしたらその人が力を発揮できるかわからない。だから難しく感じるような気がします。

職場での対応の前に、知っておいて欲しい「発達障害の前提」をお伝えします。

  • 発達障害は生まれつきのもの。
  • 進行性ではなく、同じ状態が安定して続く。
  • 大人になってから発達障害になるわけではない(もし大人になって不適応などの困り感が出たのであれば、子供の時は発達障害の特徴があっても「その環境では問題にならなかった」ということ)。
  • 大人になったからといって症状はなくならないが、本人がうまく対応して目立たなくなることはある。
  • 症例で多いのは「ADHD」と「ASD」で、多いのは「ADHD」。
  • 本人はその特徴を目立たなく見せるためにめちゃくちゃ体力を使っている。

ADHDの症状とは?

大きく分けると「不注意」と「多動・衝動性」の2つの特徴があります。

不注意(必要なところに注意を向ける力が弱い)

不注意症状の例

  • 注意・集中ができず、ケアレスミスが多い
  • 物をなくしたり、置き忘れたりする
  • 片づけが苦手
  • 計画・段取りが下手で先延ばしにする
  • 約束を守れない
  • 興味があるものに対する過度な集中(過集中)
多動・衝動性(行動をコントロールする力が弱い)

多動・衝動性症状の例

  • 落ち着きがない、そわそわする(大人では貧乏ゆすり程度)
  • 一方的にしゃべる、不用意な発言
  • 感情が高ぶりやすく、イライラしやすい
  • 衝動買い、金銭の管理が苦手

ADHDというと「多動」をイメージする人が多いですが、多動は成長するにつれて治まっていくことが多く、大人のADHDで表面化するのはほぼ「不注意」症状です

ADHDについてより詳しく知らいたい方は以下の書籍が本当におすすめです。

ADHDを疑い始めるきっかけ

デスクワーカーの場合、机が汚い締め切りまでに提出していない書類のミスが異常に多い等の理由から「変だぞ」となるケースが多いようです。

専門家の支援につながるパターン

以下の2つが多いです。

  1. 上司が社内カウンセラーに相談する。例「発達障害じゃないかと思う部下がいるのですが…」
  2. 発達障害の「二次障害」で「うつ状態」や「適応障害」の症状を呈し、専門家に支援につながる。この場合、うつになるまでの経緯を聞いていく中で、ミスが多く怒られまくった体験が発覚→発達障害(この場合はADHD)の可能性に至ります。

では、実際の対応方法に入ります。

ADHD特性がある部下に対する上司の対応方法

本題です。3点に分けて解説します。

  1. 発達障害の可能性をふまえつつ、指導の仕方を変える
  2. 指導・指示記録をとっておく
  3. 医療機関・相談機関の利用を促す

他のWebサイトの記事に書いておらず、私が重要だと思うのは2の「指導記録をつける」です。

対応1:発達障害の可能性をふまえつつ、指導の仕方を変える

まずは指導・指示の仕方を変えることで、本人の適応を助けます。

理由は、少しの介入で状況が改善すればそれに越したことはないからです。また、いきなり発達障害と騒ぎ立て、本人が居場所をなくしてしまっては意味がないからです。最悪の場合辞職につながることもあります。

指導例は発達障害の専門書に譲りますが、一般的には以下のような工夫があります。

  • 指示を視覚化する。例:「メモを書いて渡す/メモを取らせる」「箇条書き」「〇と→でつなぐなど図で示す」。
  • 指示したら、1割、3割、5割、7割の時点で「刻み確認&リマインド」する。任せきりにすると、想像を超える結果になると思っておく。
  • 普通の人ならそこまでしなくてもわかるレベルで具体的に指示(曖昧な言い方を避ける)する。
  • 「●日の●時までに作業を終わらせて欲しい」、「●時に一度報告して欲しい」と期限を設ける。
  • 作業空間はシンプルに、物を少なくする(目移りしないようにするため)。

私はまず初めに「指導記録をつける」という1点をやって欲しいと思っています。

対応2:指導・指示記録をとっておく

上記したように関わり方を変えるところから始めていいのですが、その際に重要なのが「指導・指示の記録を残しておくこと」です。

記録を残す理由

  • 「うまくいった対応がわかる」
  • 「本人に発達障害の可能性を示唆するときの根拠資料とすることができる」
  • 「医療機関・相談機関を受診した時の説明資料になる」など

例えば、ADHDが疑われるAさんがいたとしましょう。記録をつけるとしたらこんな風になります。

Aさんに対し、何月何日これこれの指示を出した。その際は「~~~」と伝えた。結果として、Aさんは~~~こうやった(やらなかった)。これをX回繰り返した。結果できた(できなかった)

表にしてまとめたるのもいいかもしれません。

以後の対応方針を決める際に、関係者で共有できる重要な資料となり、連携がスムーズにいきますので、記録に残すことを心がけてください。

対応3:医療機関・相談機関の利用を促す

上司や同僚が記録をつけ、それをもとに対応を工夫してもどうにも変わらない、そして業務への支障が大きい、そのような状況になった場合、医療機関や相談機関の利用を検討したほうが良いかもしれません。

伝え方の例を以下に示します。支援者や上司と本人の関係性にもよることをご承知おきください。

  • 「私たちもできる限りサポートしたけど、それでもミスが多いよね?自分ではどう思う?」
  • (指導記録を見せながら)「この時はこう言って教えてきたけど、それでもこうやってミスが続くのは、何かできない理由が他にあるんじゃないかととても心配しています」
  • 「テレビでやっていたのだけど、発達障害というのもあるらしいから、もしかしたら脳の特性からきてるんじゃないかな?」
  • 「一緒に検査を受けたり、助言してくれる医師やカウンセラーを探してみないか?」

 

部下に伝えるときの注意点

発達障害が疑われる職員と上司の折り合いが悪い場合、「病院に行こう」というメッセージがハラスメントと捉えられてしまう場合があります。※指導がうまくいかないと上司もイラつき、伝え方が威圧的になってしまうことも現実問題としてあります。

そんな時は心理職や保健師など、「組織内の専門家」から伝えてもらうのが1つの手です。

専門家が伝えることで、上司への陰性感情を緩和したり、説得力や安心感が増すためです。

例えば、「このままだとあなたも辛いままだし、いま大変な思いをしているよね? 1つの可能性として、発達障害ということもあるし、そうでないにしても、自分の脳の特性がわかれば何か対策することができると思うよ」等と入ると良いでしょう。

組織内にいて実感したことですが、発達障害の支援は言うほど簡単ではありません。

発達障害の特性が強く出ていてかつ仕事内容が特性に合わない場合、不適応が生じるケースはままあります。しかし、本人が力を発揮できる状況にもっていくことはできるかもしれません。と言うより、もしもっていくことができれば、雇う側も職員もお互い幸福ですから、まずはそれを目指したいものです。

そのためには上司1人で抱えずに、健康管理担当メンバーや外部機関と協力し、支援を行うのが長い目で見て大切です。

本記事のまとめ

ADHD特性がある部下に対する上司の対応方法

  1. 発達障害の可能性をふまえつつ、指導の仕方を変える
  2. 指導・指示記録をとっておく
  3. 医療機関・相談機関の利用を促す

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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  • この記事を書いた人

モトセ

精神科・児童精神科クリニックの心理職です。他には学校、企業内で心理的支援の経験があります。最近は不登校支援に力を入れています。2022年4月にブログをリニューアルしました。お気に入りやtwitterフォローお待ちしています。

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