
こういった疑問にお答えします。
本記事の内容
- HSCと不登校の関係【逆転の発想で対応できます】
- HSCという言葉を使うメリットとデメリット
- HSCは克服できる【克服事例あり】
記事の信頼性
私は現在、児童精神科で不登校などのお子さんのカウンセリングをしている臨床心理士です。年間カウンセリング回数は約800回です。
今回はHSC(Highly Sensitive Child)と不登校に関する記事です。
いつもは正攻法というか、一般的にこうするとよいと言われていますよ、ということを書いている私ですが、今回は「実はこうなんじゃない?」という仮説を書いてみようと思います。
「HSC/HSP」「愛着障害」「アダルトチルドレン」といった精神疾患ではないけど問題として有名な概念には2つの壁があると私は思っています。1つは「本当にそうなのか?の壁」、もう1つは「だったらどうしたらいいの?の壁」です。
ポイント
この記事を読むと、HSCの不登校に関する2つの壁の越え方がわかり、自信をもってお子さんに対応することができるようになる、かもです。
当事者の方から見ると「わかってないなー」と思うところがあると思いますが、そのときはご意見いただけると嬉しいです。
では、レッツ、心理教育っ!
HSCと不登校の関係【逆転の発想で対応できます】
目次です。
- HSC/HSPとは
- HSCを他の概念で説明するとどうなるか
- 「不登校になるとHSCの特性が現れる」と考えてみる【逆転の発想】
1つずつは短いので気軽に読んでみてください。
①HSC/HSPとは?
HSC(Highly Sensitive Child)とは、一般的に「人一倍敏感な子」と紹介される本人の「特性」です。大人版はHSP(Highly Sensitive Person)です。
5人に1人の割合で存在すると言われており、「認知的処理の深さ」「刺激に対する圧倒されやすさ」「情動的な反応性や共感性の高まりやすさ」「ささいな刺激に対する気づきやすさ」という4つの特徴があると言われています(Wikipedia)。
ぶっちゃけこの4つの特徴わかりづらいなと感じるのは私だけでしょうか。
現実的な例でよく言われるのは
- (敏感だから)人がたくさん集まる空間自体にストレスを感じる
- (敏感だから)傷つきやすい
- (共感性が高いから)本人ではなく別の子が先生に怒られているだけで自分が怒られているように感じる
などでしょうか。
こういった特徴から学校生活が苦痛になり、不登校になりやすい、というのがHSCと不登校の関係で一般的に言われていることです。
メモ
HSC/HSPは病気ではなく、診断されるものではないため、世の中の全てのHSCの方は「HSCだと思われる人」と呼ぶこともできます。
これが「本当にそうなの?の壁」ですね。では既存の概念でHSCの特徴を説明することはできるのでしょうか。ちょっとやってみたいと思います。
②HSCを他の概念で説明するとどうなるか
私は以下の7つの概念の組み合わせでHSCを説明できるのではないかと考えています(この記事は学術論文ではないので、個人の感想だと思ってください)。
- 気質的な不安(分離不安)
- 内向的な性格
- ASD傾向(感覚過敏)
- 評価懸念(社交不安)
- 自他境界が曖昧
- 実行機能の低さ(慌てやすく、どんくさい)
- 思春期心性
1.気質的な不安(分離不安)
これは生まれ持った不安の強さのことです。
幼稚園児を見てもわかりますが、不安が強く、よく泣く子どももいれば、鈍感でものおじしない子もいます。気質的な不安の高さはHSCの敏感さと似たところがあります。
2.内向的な性格
外向―内向性は「ビッグファイブ」という性格を5つの特性で表す理論の因子の1つです。
HSCの方は敏感さのためかどちらかというと内気で、内向性が高い方の特徴をもっているように見えます。
3.ASD傾向(感覚過敏)
HSCには音やにおいに対する敏感さが含まれていますが、これはASD(自閉症スペクトラム)の感覚過敏と似た特徴です。
4.評価懸念(社交不安)
評価懸念というのは、他者からの否定的な評価や否定的に評価されるのではないかという予測に対する不安のことです。
HSCの特徴と似ているところがありますが、HSCよりずっと古くから提唱された概念です。
私の主観ですが、HSC特性があると言われた不登校のお子さんの家族関係について聞いていくと、父親が厳しく、子どもが父親の顔色をうかがって生活しているパターンが多い気がします。
評価懸念や他者の言動に対する過敏さも、家庭で父親(ないし母親)の顔色をうかがう習慣が教室でも表れている(汎化している)ようにも見えます。
5.自他境界が曖昧
自他境界(バウンダリー)とは「自分と他人は違う存在だと区別する境界線」という意味です(詳しくは>>自他境界の作り方って?境界が“あいまい”だと感じたときの改善法(外部サイト)がわかりやすいです)。
他人が怒られているのに自分が怒られているような気がする、という現象は、自他境界のあいまいさによるものに見えます。私の経験上ですが、自他境界のあいまいさも、人によって個人差があります。
6.実行機能の低さ(慌てやすく、どんくさい)
実行機能とは「論理的に考える」思考の力ではなく、「実際にやってみる」作業の力です。WISCでいうと「ワーキングメモリー」と「処理速度」で評価します。
以前私がHSCと言われていたお子さんのWISCをとったところ、処理速度がとても低い方がいました。
つまりその子から見た世界は、「周りの人々が自分の1.5倍速で動くせわしない世界」だったのかもしれません(1.5倍はたとえ話です)。
周りの人がビデオの早送りのようにせわしなく動くとしたら、他者の動きに敏感なって当然ですし、疲れやすいのも理解できます。
7.思春期心性
【秀逸】子どもが学校に行けない理由「気後れ」を解説【不登校の心理】でも書きましたが、思春期心性の特徴の1つは「他者からどう見られているのか」という自意識の高まりです。
1~6で示した本人の特徴にプラスして、時期的な要因としての思春期心性が加わることで、よりHSC的な特徴が目立つことがあると思われます。
③「不登校になるとHSCの特性が現れる」と考えてみる
上記した特徴のいくつかがたまたま重複したうえで、友だちから否定的なことを言われるなどの「出来事」がきっかけとなり不登校になると、学校に行っていないという事実によってより自意識過剰になり、HSC的な特徴が強く表れるのではないか?というのが本記事で言いたいことです。
別の言い方をすると、不登校になるとHSCになる、ということです。

という疑問をもたれた方もいるかと思います。
それについては、正直なところ、わかりません。
じゃあなぜこんな逆転の発想をするのかですが、1~7のように既存の概念に分けたことで、克服にむけてアプローチする方法がいくつか浮かびあがるためです。
たとえば、評価懸念はようするに社交不安なので、「社交不安の認知行動療法(安全行動をやめる)」で症状を軽減できるかもしれませんし、自他境界のあいまいさには「アドラー心理学の課題の分離」の考え方が役に立つかもしれません。
また、ワーキングメモリーや処理速度が低いという自覚ができれば、メモをとったり時間にゆとりをもつといった発達障害系の自己対処が役に立つかもしれません。
内向性やASD特性は変えることが難しいですが、気質的な不安や思春期心性は大人になって人生経験を積むと多少マイルドになりますから、どっしり構えておくこともできます。
なにより、HSCだからどうしようもない、というお手上げ状態から一歩進むことができるというのが一番メリットかもです。
こういったメリットもあるので、逆転の発想で考えてみたわけでした。
では次に、HSCという言葉をつかうメリットとデメリットを考えていきます。
HSCという言葉を使うメリットとデメリット
①HSCという言葉をつかうメリット
一番はHSCという理由付けができることで、不登校児童本人の罪悪感が減ることだと思います。
HSC特性は共感性が高いとか、よく気が付くといった長所としても捉えられるため、HSCと言われた方はちょっと自分が特別であると思うようです(≒ほめられている)。
それによって罪悪感や恥という心理的なダメージが減るのがメリットでしょう。
また、HSCに限らず、病名をつけることで「不登校=なまけ」という先入観を排除することができたりします。
たとえば、父親が「不登校なんて甘えてんじゃねーよ」というスタンスだった場合、HSCでした、ASDでしたといわれると、関係する本なんかを読んだりして、子どもを理解しようとするきっかけになることがあります。
本人の心理に対する家族の理解が深まると、本人が家にいることのプレッシャーが減り、心のエネルギー回復につながるため、メリットだと言えます。
②HSCという言葉をつかうデメリット
一番は、うちの子はHSCで敏感な子だからできるだけ不安を軽くしてあげようと親が気を遣ったり、先回りしたりするようになることです。
親が先回りすると、子どもは自分でストレスに耐えて考えたり行動したりすることが減ります。結果、主体性が乏しくなり、母親へのわがままや甘えといった依存が強まる負のループに入ります。このループはけっこうやっかいで、親からすると私がいないといけない、子どもからすると親がいないと無理という共依存関係になりやすいです。

と思った方もいると思いますが、個人的にはHSCのお子さんでも一般的な不登校対応で十分本人の自立を促すことができると思っています。
むしろ、HSCだからといって子どもに気を遣うようになると、家庭内で子どもが主導権を取るようになる危険があると思っています。
一般的な不登校対応というのは親の「攻め」と「守り」のコミュニケーションのことでして、以下の記事で書いていますのでよかったら読んでみてください。
HSCは克服できる【克服事例あり】
最後に、HSCは克服できるのか、ですが、これはできます。
これは言葉のトリックでもあるのですが、ようするに問題を抱えた人の人生がうまくいっていれば、その問題をHSCのせいにする必要がないので、克服したと同じです。
HSC特性が問題になるのは、その特性をもったお子さんが「不登校」だからです。
再登校したり、社会にでて仕事して生活したりするようになれば、HSCかどうかは問題ではないのです。なんなら「勘の鋭い人」などと評価されるかもしれません。
具体例
私が対応した不登校の事例を1つご紹介します。本人に許可は取っていますし、内容は本質を損なわない程度に改変しています。
その方(Aさんとします)は小学校1年から不登校になり、適応指導教室に通っていました。分離不安が強く、母が出かけるときは常に一緒について行ったり、課外学習で親元を離れて宿泊すると大泣きしたりするということがありました。
中学生になると他の人が自分をどう思っているか過敏になり、適応指導教室に通うのをやめ、完全に自宅に引きこもるようになりました。家ではゲームやテレビを見る時間が長かったようです(スマホはまだなかった時代なので)。
高校進学にあたっては通信制高校を選択しました。登校は週に1回でしたが、他の人が怒られていると自分が怒られているような気がしたし、とにかく周りから何か言われないか心配だったと話していました。
親から資格を取った方がいいと言われていたため、高校卒業後は専門学校に進学しました。毎日登校するのは小学生以来だったことから、毎日とにかく緊張して疲れてしまうため、クラスメートとは誰とも会話をせず、学校には授業を受けに行っているだけでした。
数か月すると、クラスのおしゃべりな生徒がAさんに声をかけてくるようになり、最初は怖かったものの、話していると、自分を攻撃してくるわけでもないことがわかり、安心して関われるようになりました。相手ももう大人だしと考えると安心したとのことです。1年も経つと、クラスメートのみんなは自分のことを意識しているわけでもないことがわかり、集団で生活するストレスは減ったそうです。
内向的でしたが、完璧主義で勉強ができる方だったため「勉強ができるキャラ」を確立し、観察力もあるためクラスメートから一目置かれるようになりました。それが成功体験になって自信がついたようです。
就活にあたっては第一志望から不採用の通知を受けて激しく落ち込むこともありましたが、他の生徒も何度も落ちている事実を知り、心配はそこまで強くなりませんでした。結果として小さな会社に就職して、自立して生活することができたようです。
事例のまとめ
Aさんは明らかに気質的な分離不安が強いタイプで、人からどう思われているか過敏であったり、学校生活ですぐ疲れたりなど、HSCに近い特性があったと思います。
ただし彼は勉強得意という長所と、おしゃべなクラスメートという幸運にもめぐまれ、専門学校に居場所を見つけることができ、その後、普通のサラリーマンになりました。
恐らく、中学校あたりでカウンセリングを受けていたら、HSCと言われていたでしょう。しかし大人になった今、HSCという概念はAさんにとっては意識する必要のないものに見えます。
ポイント
これを克服の事例と言って良いのか疑問かもしれませんが、私の考えとしては、どんな病気や特性であれ、今がうまくいっていれば問題にはならないのだから、今をよくするにはどうすれば良いか考えることが大切ということです。
今をよくするために特性理解が役に立つと思えば特性について勉強すればいいし、特性に関係なく、その子の今の問題にはこうした方がいいだろう、という見立てがあれば、それをすればいいと思います。
もし先が見えない…と悩んでおられる方がおられたら、専門家に相談するのも1つの手です。どうか1人で悩まないでください。
本記事のまとめ
- HSCと不登校の関係
- HSCという言葉を使うメリットとデメリット
- HSCは克服できる【克服事例あり】
最後に、私の不登校の結論は以下に書いていますので、よかったら読んでみてください。
お気に入り登録やtwitterフォローお待ちしています!