こういった疑問にお答えします。
本記事の内容
- 【初学者向け】精神分析的心理療法のおすすめ本5選
- 対象関係論(クライン)の面接おすすめ本
記事の信頼性
私は現在、医療機関でカウンセリングや心理検査を行っている臨床心理士です。年間のカウンセリング回数は約1000回。研究では査読ありの学会誌に論文が1本掲載されました。
大学院で精神分析を学んだ人にとっては当たり前の知識かもしれませんが、大学院で精神分析の教授がいなかった私にとっては「精神分析的心理療法って具体的になにするの?」とずっと疑問でした。
この記事ではそんな私が、新卒時の自分に教えたい、精神分析的心理療法に関するおすすめ書籍を紹介していきます。
初学者向けですので、申し訳ないですが中堅やベテランの方には物足りないと思います。
精神分析を学ぶメリットとは?
精神分析がオリエンテーションの先生方から見ると「外野がメリット語ってんじゃねぇよ」と思われるでしょうが、個人ブログなのでご容赦ください。
個人的に、分析を学ぶメリットは、その人の行動の動機(理由)やなぜそういう動機を得るに至ったかをアセスメントできることです。欲求や防衛といった力動的な見方でないと、当人がその行動に至る理由が説明できないのだと思います。他のモデルでもできるのかもしれませんが、分析的な見方の方が説得力ありますし、心理検査、特に投影法では分析的にアセスメントすることが多いため、検査を取る方は学ぶメリットは大きいと思います。
もう1つは境界性パーソナリティ障害の心性を理解するために、分析的な見方が役に立ちます(役に立つというか、投影性同一視のような分析的な見方ができないと太刀打ちできない)。
では、いってみましょう!
【初学者向け】精神分析的心理療法のおすすめ本5選
以下の5冊を紹介いたします。
- 改訂 精神分析的人格理論の基礎―心理療法を始める前に
- 精神分析的心理療法の実践―クライエントに出会う前に
- カウンセリングの理論 (下):力動論・認知行動論・システム論
- 精神分析の歩き方
- 集中講義・精神分析㊤─精神分析とは何か フロイトの仕事
①改訂 精神分析的人格理論の基礎―心理療法を始める前に
結論、初学者であれば、馬場先生の本をおすすめします。私は精神分析を学ぶために一番最初に読みまして、大変わかりやすかったです。
エスの中身がリビドーとアグレッションであることなど、構造論の初歩から、防衛機制、退行、対象関係論、境界性パーソナリティ構造など、めちゃくちゃ重要なところを語り口調で読みやすく書いてくださっています。
位置づけとしては、自我心理学です。
本記事記載時でAmazonレビューは29件で★4.5と非常に高い評価です。
目次を引用します。
はじめに
第1章 歴史と定義
1.催眠療法から自由連想へ 2.現代までの発展第2章 構造論
1.自我,エス,超自我 2.意識,無意識,前意識(局所論) 3.超自我とエスについて第3章 力動論的観点:自我の諸機能
1.現実機能 2.防衛機能 3.適応機能 4.対象関係 5.自律機能 6.統合機能自我機能のまとめ
第4章 力動論的観点:自我の諸機制
はじめに 1.防衛・適応機制 2.抑圧 3.否認 4.取り入れと同一化 5.強迫防衛と強迫性格 6.隔離 7.知性化 8.合理づけ 9.反動形成 10.やり直し 11.置き換え 12.投影 13.投影性同一視 14.退行 15.昇華──健康な自我活動 まとめ第5章 心の病理と退行(局所論的退行の理論)
はじめに 1.退行とは 2.健康な退行 3.心理療法と退行 4.日常生活と退行 5.投映法と退行 6.バリントの退行論 7.さまざまな命名第6章 フロイトと自我心理学の発達論
1.発達論の意義 2.フロイトの発達論第7章 対象関係の発達
第8章 マーラーの分離-個体化の発達
はじめに 1.分離-個体化図式について 2.正常な自閉期 3.正常な共生期 4.分離-個体化期 5.分化期 6.練習期 7.再接近期 8.再接近期と父親 9.個体化と情緒的対象恒常性 10.三層構造の形成第9章 スターンの発達論
1.新生自己感 2.中核自己感 3.主観的自己感 4.言語的自己感 発達論のまとめ第10章 境界性人格構造(パーソナリティの病理)
1.BPOとBPD 2.BPOに共通する特徴 3.原始的防衛機制 4.境界性人格の発症年齢と社会適応 5.非特異的な自我の弱さ 6.再接近期の課題と分裂の構造 まとめ引用元:http://www.iwasaki-ap.co.jp/book/b221957.html
最初の一冊はこの本でまちがいないです。
②精神分析的心理療法の実践―クライエントに出会う前に
こちらも馬場先生の本ですが、前述した書籍が精神分析の理論的な内容であるのに対し、こちらはカウンセリング(面接)の解説になります。
本記事記載時でAmazonレビューは23件で★4.5とこちらも非常に高い評価です。
目次を引用します。
第1章 精神分析的心理療法の原点
催眠療法から自由連想法へ
自由連想法と対面法
第2章 心理療法を開始するまで
各種心理療法に共通する原則
導入,動機づけ,合意,査定
目標の設定と治療同盟
現実問題への対処
心理療法の契約
第3章 初期の聴き方と構造の意味
聴き方と聴くことの意味
内的体験を聴く
契約とその心理的意味
生活史の聴き方
第4章 転移・その1
第5章 転移・その2
第6章 抵抗の意味と対応
第7章 介入と解釈・その1
第8章 介入と解釈・その2
第9章 徹底操作と終結
第10章 児童面接と親面接
児童治療における動機づけ
子どもの遊びの意味
親面接について引用元:http://www.iwasaki-ap.co.jp/book/b195721.html
たぶんなると思います。
ですが、基本的なところを押さえていないとディープなところを理解できませんよね。
北山修先生や小此木啓吾先生の本だって読んだ方がいいに決まってるんですけど、最初の1冊はわかりやすい方が、次も読んでみようというモチベーションになると思うんです。
その点、馬場先生の本は読みやすい。最初の1冊に本当におすすめです。
③カウンセリングの理論 (下):力動論・認知行動論・システム論
認知行動療法のおすすめ書籍紹介でも書きましたが、1つの心理療法の「らしさ」・「独自性」を理解するには他の心理療法と比較する相対化の作業が不可欠だと思います。
その作業にうってつけなのが諸富先生の「カウンセリングの理論 (上)(下)」です。
精神分析においても、CBTや家族療法と比較してみると、どういう特徴があるのか理解が深まります。
本記事記載時でAmazonレビューは8件で★4.5と非常に高い評価です。2022年出版であり、加速化体験力動療法といった現在の理論について書かれている点も魅力です。
目次を引用します。
第4章 精神力動論の立場
1 精神力動論の特徴
2 フロイトの精神分析
3 「精神分析的カウンセリング」「力動的カウンセリング」
4 対象関係論
5 力動論的方法の短期化の動きと短期力動療法
6 AEDP(加速化体験力動療法)第5章 ユング心理学とアドラー心理学──「精神力動論」と「自己成長論」の間
1 ユング心理学(分析心理学)
2 ジェイムス・ヒルマン「魂の心理学」(ユング派の「元型心理学」)
3 アドラー心理学(個人心理学)第6章 認知行動論の立場
1 認知行動論の特徴
2 第一世代──行動療法
3 第二世代──認知行動療法
4 第三世代の認知行動療法第7章 システム論の立場──家族療法、ブリーフセラピィ、ナラティブ、オープンダイアローグ
1 システム論的な見地
2 家族療法
3 ブリーフセラピィ
4 ソリューション・フォーカスト・アプローチ
5 ナラティブ・アプローチとナラティブ・セラピー
6 ライフデザイン・カウンセリング
7 オープンダイアローグ第8章 その他のアプローチ
1 動機づけ面接
2 交流分析
3 内観法
4 森田療法
5 EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
6 回想法(ライフレビュー)
7 ピークエクスペリエンス体験ワーク
8 ソマティック・エクスペリエンシング第9章 カウンセリングのおける「開かれた統合的アプローチ」
1 「カウンセリング理論・全体見取り図」に「その他のアプローチ」を位置づける
2 まとめ
3 統合に向かう傾向──「大きな統合」と「小さな統合」
4 日々の臨床の基本スタンスとしては「小さな統合」=「面接のタイプや経過とともに技法を変えていくスタンス」
5 「開かれた統合」へ──統合性と多元性
6 「核に据える学派(ベースに据える学派)」をどのようにして選択するか──あなたは「何のスペシャリスト」になりたいのか
7 「自分のライフワークにかかわる特定のテーマ」に関しては「大きな統合」
8 EAMA(体験‐アウェアネス‐意味生成アプローチ)──実存的自己探究を援助する新たな統合的アプローチおわりに
引用元:https://www.seishinshobo.co.jp/book/b599412.html
なんと諸富先生ご自身でyoutubeで書籍の解説していました。
他の心理療法と比較することで精神分析のらしさが深く理解できると思います。
④精神分析の歩き方
現役の分析家の先生が書かれた精神分析の入門書です。
出版年が2021年と近著であるにも関わらずAmazonレビューは48件あり、★も4と高評価です。帯を書いているのが日本精神分析協会の現会長である藤山直樹先生と『居るのはつらいよ』で有名な東畑開人先生というのもすごいですね。
目次を引用します。
第I部 初学者のための精神分析ガイド
第1章 私はどんなふうに精神分析を学んできたか
第2章 日本精神分析史――分析的と力動的
第3章 日本精神分析マップ――コミュニティを横断する
第II部 精神分析観光は遺跡巡りか?――心理臨床における精神分析の位置
第4章 日本心理臨床史――「闘争の時代」を超えて
第5章 心理臨床学外史――反論と応答
第III部 現地に赴く前に
第6章 「独り善がり」の治療者――環境とクライエントのニードを捉える
第7章 二つのアセスメント――精神分析中心か? クライエント中心か?
第8章 「ふつうの面接」を考える――援助法の四象限
第9章 モチベーション論――面接の実際問題
第10章 それでも、考えるべきこと――パターナリズム再考
第IV部 精神分析水先案内
第11章 いま、精神分析が存在する意義
第12章 カルトを超えて引用元:https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b582669.html
レビュー内容からも、精神分析をオリエンテーションにしていない心理士にとって有益な内容が書かれていることがうかがえます。
口語で書かれていてすんなりと読めますが内容はしっかりと濃いです。非常におもしろく、勉強になります。特に第3部は精神分析をオリエンテーションにしていない心理職や、心理近縁の対人援助職にも非常に参考になるエッセンスがつまっているため、ぜひ読んでみてほしい。このような下ごしらえの大切さについては、SVやコンサルテーションの中で学ぶ(指摘される)機会はありますが、本の中でここまで語られているものはあまり他に見かけたことがありません。実践に役立つ内容です。また、一冊通しての著者の語りからは精神分析への強い愛を感じました。
Amazonレビューより
山崎先生は日本心理臨床学会の理事でもあり、本の信頼性も間違いなしです。
⑤集中講義・精神分析㊤─精神分析とは何か フロイトの仕事
藤山先生は国際精神分析学会(IPA)の認定精神分析家であり、個人オフィスを構えておられます。日本精神分析協会の現会長です(本記事執筆時)。
俗な言い方で恐縮ですが、ガチ分析家の書籍を読んでみたい方はこちらの本をおすすめします。
Amazonレビューは14件で★4.5と高評価です。大学の講義をもとにしており読みやすさも間違いありません。
目次を引用します。
はじめに
Ⅰ 精神分析とは何か
イントロダクション
1 精神分析とは何か?──外側からの視点
2 精神分析とは何か?──内側からの視点
3 精神分析という営み?──分析の場所
4 精神分析という営み?──精神分析というできごと
Ⅱ フロイトの仕事
5 フロイトの人生と仕事?──精神分析に向かって
6 フロイトの人生と仕事?──精神分析の成立
7 フロイトの人生と仕事?──性愛理論の確立と技法の発展
8 フロイトの人生と仕事?──古典理論の確立
9 フロイトの人生と仕事?──後期理論
10 まとめ引用元:http://www.iwasaki-ap.co.jp/book/b195852.html
フロイトの思想も詳しく書かれており、フロイトについて探求したい方にもお勧めです。
下巻もあり、フロイト以後の対象関係論、自我心理学、クライン、ビオン、フェアバーン、バリント、ラカンなどについて書かれています。
Amazonレビューは18件で★4.5と上巻より件数が多いです。それだけフロイト以後の精神分析について詳細にまとめられている書籍が少ないのだと思います。
読破するのは大変ですが、腰を据えて勉強したい方におすすめです。
対象関係論(クライン)の面接おすすめ本
対象関係論も精神分析なので別の章にするのは間違いなのですが、独特な理論なので別枠にしました。
①対象関係論に学ぶ心理療法入門:こころを使った日常臨床のために
クラインによる対象関係論による見立てや面接について学びたい方は祖父江先生のこの本をおすすめします。
Amazonレビューは7件で★4.5と高評価です。クラインの理論は妄想分裂ポジション/抑うつポジションなど、フロイトの精神分析とは異なる見方であり、特に面接についての本は少ないのでおすすめです。
目次を引用します。
序章 こころを使った日常臨床の意義
第一章 対象関係論の特色
第一節 一者心理学から二者心理学へ
第二節 抑圧から排除への時代的変化――性愛の抑圧から攻撃性の投影同一化へ
第三節 外的現実とは別の内的現実の提唱
第四節 ふたつの内的世界――妄想分裂ポジションと抑うつポジション
第五節 無意識的空想の重視
第六節 転移の重視
第七節 逆転移の重視
第八節 愛憎を扱う二系列の学派
第九節 対象関係の成長第二章 対象関係論における見立ての仕方――「ハード面」と「ソフト面」
第一節 見立てにおけるハード面
第二節 見立てにおけるソフト面――見立ての手順第三章 こころの動き方を知る
第一節 情動・思考の動き方を知る
第二節 情動・思考の動き方の四系列
第三節 象徴や置き換えからこころの動き方を知る第四章 見立てから面接方針へ
第一節 見立てをまとめる視点
第二節 面接方針を立てる
第三節 見立てから面接方針への実際補遺 こころの痛みと防衛機制
Ⅰ こころの痛みとその起源
Ⅱ こころの痛みに対する防衛機制の二系列――臨床的分類おわりに 「こころを使う」から「本当のことを言おうか」へ、さらには「遊びの彼方」へ
引用元:https://www.seishinshobo.co.jp/book/b193654.html
祖父江先生は名古屋で開業をされているようで、HPのリンクを貼っておきます。
対象関係論による面接を学ぶにはうってつけだと思います。
本記事は以上になります。
精神分析のおすすめ書籍いかがでしたでしょうか。
他にも心理療法に関するおすすめ書籍をまとめていますので、参考にしてみてください。
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