こういった疑問にお答えします。
本記事の内容
- 田中ビネーVの適用年齢と実施方法
- 田中ビネーVの解釈・所見作成の方法(専門家向け)
- 田中ビネーⅤとWISC-Ⅳの違い
私は医療機関で田中ビネーVを含め心理検査を実施し、結果を説明しておりました。
実施や解釈の方法に行く前に1分で概要をおさらいしてみます。
田中ビネー式知能検査とは?
もともとビネー式知能検査とは、アルフレッド・ビネー(Alfred Binet)とテオドール・シモン(Theodore Simon)が開発し、ルイス・ターマン(Lewis Madison Terman)などによって修正され、発展した知能検査です。日本ではそれをもとに田中寛一さんが作った「田中ビネー式知能検査」と鈴木治太郎さんが作った「鈴木ビネー式知能検査」があります。
2つのうち一般的なのは「田中ビネー式」です。鈴木ビネーは実施している機関をほとんど聞いたことがありません。
精神科病院など昔からの医療機関ではあるのかもしれませんが、クリニックレベルで使っているところを私は知りません。
田中ビネーは2005年に最新の改定がなされ、「田中ビネー式知能検査Ⅴ(ファイブ)」となりました。
では、もう少し詳しく解説していきます。
田中ビネー式知能検査Ⅴについて
ここでは最新版である田中ビネー知能検査Ⅴ(田中ビネーⅤ)について記載していきます。
心理検査の実施・解釈には専門的な知識と経験が必要です。検査結果の解釈については、必ず専門家の説明・助言を受けてください。
適用年齢・実施時間・実施頻度
田中ビネーⅤの適用年齢は「2歳~成人」です。ちなみにWISC-Ⅳは5歳0ヶ月~16歳11ヶ月です。
実施時間は児童によります(本当に能力によって違ってきます)。
経験としては30分~90分程度です。1度検査を受けた後にもう一度受ける場合、1年以上空けることが推奨されています。
実施機関
児童精神科の医療機関、児童相談所、発達相談機関、私設のカウンセリングオフィスなどで必要に応じて実施しています。
実施方法
田中ビネーⅤでは「年齢級」ごとに複数の問題が設定されています。
例えば1歳級(1歳レベルという意味)の問題が12個、2歳級の問題が12個、3歳級が・・・という具合です。
なお、各年齢級の問題は、その年齢の子どもの50~70%が正答できるような問題が選定されています。
どの年齢級から検査を始めるかは検査実施者が判断します。5歳児だから5歳級(5歳レベル)から実施する必要はありません。
むしろ、医療機関等を訪れて検査を受けるお子さんの多くは発達の遅れが示唆されるため、生活年齢より低い級(レベル)の問題から始めることが多いです。
最初から難しい問題をやってしまうと、児童のモチベーションが下がってしまい、やり遂げることができないことがあるためです。
検査を始めたらまず全ての問題を正解できる年齢級を特定していきます。
例えば5歳の児童に3歳級から初めて全部終わったとして、1問でも不正解があれば下の年齢級に下がって実施します。つまり、2歳級を全て実施します。そこで2歳級が全問正解できれば、それ以降は下がりません。
その後は全問不正解になる年齢級まで上がりながら実施します。
例えば、4歳級で1つでも正解したら5歳級に上がって全部実施、5歳級も1問でも正解したら上がって6歳級を実施という流れです。全問不正解になるまでこれを繰り返します。
結果の整理ではまず「基底年齢」と呼ばれるものを算出します。
これは全問正解できた年齢級+1歳で求めます。
つまり、3歳級の問題12個を全て正解し、4歳級の問題で1つでも間違いがあった場合、基底年齢は3+1で4歳となります。なお、全問不正解となった年齢級は「上限年齢」と呼びます。
この基底年齢に対し、基底年齢以上の年齢級の問題で正解した問題数を足していき、「精神年齢」(知能の発達年齢のようなもの)を算出します。
この「精神年齢」を「生活年齢」で割って100を掛けた数値が田中ビネーⅤの知能指数(IQ)となります。
田中ビネーⅤの知能指数(IQ)=精神年齢÷生活年齢×100
※これは2~13歳の児童の場合であり、成人(14歳以上)では精神年齢を算出しないため、知能指数の算出方法が異なります(この記事では触れません)。
例えば生活年齢が5歳0ヶ月(60ヶ月)で、精神年齢が3歳(36ヶ月)であれば、36÷60×100で72となります。
この場合の児童は知的には境界域であると推測されます。知能指数の目安は以下です。
- 平均:100
- 知的境界域:71~79
- 軽度知的障害:51~70
- 中度知的障害:36~50
- 重度知的障害:21~35
- 最重度知的障害:20以下
※療育手帳の判定では知能指数の他に社会生活能力を考慮して等級が判定されます。IQの数値のみでは判定されません。
田中ビネーⅤの解釈・所見作成の方法
解釈では主に以下のことを行います。
- 当該児童がどの程度の知的水準にいるのか判断
- 正解・不正解となった問題の傾向から得意・不得意を判断
- 検査時の行動観察から児童の強みや課題を見立てる
行動観察では姿勢、検査者の指示がきけるか(意思疎通)、注意集中ができるか、検査中の態度は楽しそうか嫌がっているか、言葉遣いの特徴、間違えたとき正解した時の反応などです。
田中ビネーⅤとWISC-Ⅳの違い
田中ビネーVとWISC4の違いは大きく2点です。
- 田中ビネーで評価できる知能は大まかでWISCはもう少し細かい
- 田中ビネーの方がWISCより難易度が低い問題がある
田中ビネーで評価できる知能は大まかでWISCは細かい
WISCの記事でも書きましたが、WISC-Ⅳ知能検査は「総合力」(全検査IQ)に加え4つの指標得点(能力)を評価できます。
具体的には「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリー」「処理速度」です。この指標得点があるおかげでいわゆる「発達のでこぼこ」と呼ばれるバランスが評価できるわけです。
これに比べて田中ビネーⅤを児童に実施した場合、算出できるのは「総合力」のみです。
一応、正解した問題の傾向から強みと弱みを推測することはできるのですが、数値的には表れません。
じゃあ全てのケースでWISCを実施すれば良いではないか?と誰もが思うことでしょう。私もそう思っていました。
そういうわけでもないのです。
例えば中度や重度の知的障害となると、得意・不得意がはっきりしている、というよりは、全体的に低くなりやすいです。
つまり、バランスを評価する必要性があまりないのです。そのため、知的障害の療育手帳の判定などは田中ビネーを実施することが多いです。
田中ビネーの方がWISCより難易度が低い問題がある
田中ビネーは2歳から実施できますので、対象が5歳からのWISCより難易度が低い問題が用意されています。これがメリットになる場合があります。
例えば、能力を詳しく知りたいのでWISCのオーダーがあった5歳のお子さんがいたとしましょう。
WISC-Ⅳを実施してはみたものの、そのお子さんの知的レベルが思ったより低く、問題の教示が理解できなかったり、粗点が0点ばかりなどの理由で検査を中止せざるを得ない場合があります。
その場合、田中ビネーⅤを実施すると最後まで実施でき、知的水準を推定することができる場合があります。
以上田中ビネー知能検査について紹介いたしました。