家族心理学

親密な関係への恐怖心と克服法|ヤマアラシのジレンマとは

 

※この記事は大学時代の勉強ノートです。

皆さんは 「ヤマアラシのジレンマ という言葉をご存知でしょうか?

ヤマアラシはハリネズミみたいな動物です。

寒い時、ヤマアラシは身を寄せ合ってお互いの体を温め合いたいけれど、近づきすぎると針が刺さってお互いを傷つけるため、近づきたいのに近づけないというジレンマです。

元々はショーペンハウアーの寓話に由来し、心理学(精神分析)的にはフロイトが論文で使ったようです。

ちなみにウィキペディア情報ですが、本物のヤマアラシは針がない頭を寄せ合って体温を保っているそうです。そんな裏技あるんですねと思いましたが、人と人も、守っていないオープンなところから近づいていけばいいという比喩とも…

とにかくこのジレンマは「他者と親密になりたいけれど、同時に親密になることを恐れてもいる」という意味があります。では何を恐れるのか、WeeksとTreatという人が親密性の恐怖について6つの要因を述べています。

親密さに対する6つの恐怖

依存への恐怖

パートナーに依存することができない人が持つ恐怖。

依存する人は弱い人だと見なしていたり,依存することでパートナーの重荷になることを恐れている。同時にパートナーの依存を受けとめることも難しいため,2人の心理的距離を縮めることは難しくなる。

依存自体が怖いという認知があり、叩き上げ(他人に頼らず成長した人)がなりやすいと言われています。甘えベタとも言えます。

感情に対する恐怖

感情を表現すること,感情をパートナーと共有することを恐れること。

親密さには,明るく楽しい感情のみならず,悲しさやつらさ,弱音も共有されることが必要だが,例えば論理性や合理性が重視され,負の感情が否認されることもある。

自らの感情を表現できないだけでなく、相手の感情も受け入れられない。

男性はコミュニケーションが内容レベルになりがちであり、感情の表出や理解が難しい場合もある。

怒りに対する恐怖

怒りを表現することで相手を傷つけてしまうことを恐れて,正当な自己主張ができなくなったり,相手から怒りを向けられることを過度に恐れるために,適切な自己表現ができないこと。自らを服従的な立場に追いやってしまいかねない。

比較的女性に多いと言われています。

コントロールを失うことあるいはコントロールをされることへの恐怖

パートナーと親密になることによって,自由が奪われたり,束縛・干渉されるという不安を感じている。

自分がパートナーにのみこまれて,自分自身がなくなってしまうような深い不安を抱いている場合もある。

自分をさらけ出すことへの恐怖

自分のことを相手により深く知られることを恐れる心理。

自分のことを相手に知られると,相手からの評価が否定的なものに変化するのではないかと恐れている。したがってパートナーに自己開示することが難しく,信頼関係が深まらない。

自尊心の低さが関係すると言われています。高ければ評価が否定的になる心配をすることはないからでしょう。

見捨てられること、拒絶されることへの恐怖

パートナーがいつか自分を見捨てるのではないか,拒絶するのではないかということを恐れる心理。

そのために「この人はどうせ自分を見捨てるから」と常に否定的な結果を予測し,相手と距離をおくか,相手の愛情を常に確認しようとしがみつくという行動をとる。

 

このような恐怖を伴うこともあり、親密な関係を築いていくのは難しい場合もあります。ではそもそも、人と人が親密になっていく過程とはどのようなものなのでしょうか。

親密さのダンス

親密になっていく過程には、近づくことと遠ざかることの繰り返しによって、お互いが気持ちのいい関係を維持できる距離を探っていくというプロセスがあります

Lernerという人は、この親密さを手にれる過程が「踊る」ようであることから、このプロセスを「親密さのダンス」と呼びました。

逃げる人と追う人

そもそも人にはその人が心地よいと感じる距離感があるようです。

例えば1か月に何回会うとか、会った時に言いたいことを全部いってしまうか選んでいうかとか、心的/物理的な距離のことです。

例としてAさんとBさんがいたとしましょう。

Aさんは相手から7歩の距離が心地いいと仮定し、Bさんは相手から4歩の距離が良いと仮定します。これはAさんが1人好きかもしれないし、Bさんのほうが近づきたがりということかもしれません。

Bさんは4歩の距離が心地よいのでそこまでAさんに近づきます。しかしAさんは7歩の距離が心地よいので、4歩では近すぎると感じてしまい、息が詰まってしまいます。

そこでAさんは自分が心地よい距離である7歩のところまで下がります。するとBさんはまた近づきます。つまり近づいては引き、近づいては引きの繰り返しで、このやりとりがダンスのステップのようであることから、親密さのダンスと呼ばれています。

Bさんは追っても遠ざかってしまうAさんに失望してしまい、10歩の距離まで下がると、今度はAさんの方が寂しくなって7歩まで近づいてくる、という新たなダンスが始まることもあるでしょう。

この例えは恋愛場面での駆け引きにも似ていますし、非常に良く人と人との親密さの特徴をとらえていると思います。

上手なダンスの踊り方

ではどうやったらこの2人はうまくやっていくことができるのでしょうか。

距離が遠くてもいい方が少し頑張る

上記の例ではAさんは4歩の距離が近すぎて居心地が悪いのですが、少し頑張って5.5歩くらいのところまでは近づいてあげることでBさんの不安を軽減できます。

距離が近いほうがいい人も少し頑張る

近いほうがいい人も5.5歩くらいで我慢し、自分で少し不安を抱えてみたり、相手に全部言わないと言った努力をすることで、Aさんの負担を軽減できます。

要するにお互いが少しずつ我慢し、折り合いがつけられる距離を探っていきましょうということです。

自分の好きな距離感を知っていることは大きな武器と言えます。親密さの課題に取り組む時期は青年期と並行する時期であることから、アイデンティティの確立が大きな手助けとなるでしょう。

対人関係の全てを自分でコントロールできることはできず、不安や恐怖が伴うものです。しかし、その不安や恐怖に少しでも耐え、安全な場所から一歩踏み出して頑張ってみることで本当に気持ちのいい関係が作れるのではないでしょうか。

  • この記事を書いた人

モトセ

臨床心理士です。最近は不登校支援に力を入れています。お気に入りやtwitterフォローお待ちしています。 noteでは不登校のお子さんに対する具体的な関り方をプログラム形式で書いています➝noteはこちら

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