※この記事は大学時代の勉強ノートです。
今回は親子の親密さに関する臨床的概念である「親役割代行」と「情緒的遮断」について紹介していきます。これらはいわゆる「機能不全家族」で生じる現象であり、見立てをする際に知っておくと役立ちます。
親役割代行( parental child / parentification )
皆さんは子供の時に「自分自身が親を世話する」等、何かしらの事情で大人にならざるを得なかったことはありますか?
このような子どもが親の役割を代行している状態を家族心理学では「親役割代行(parental child / parentification)」と言います。文字通り子どもが親の役割を肩代わりしているような状態です。
例:葛藤的な夫婦関係が生じている家族において、子供がその夫婦を支える役割を取る。本来は夫婦間で解消すべき問題。
家族心理学では健康な家族の家族の指標の1つとして、夫婦と子どもとの間には「適切な境界」がある方が良いと言われています(構造派家族療法モデル)。
しかし、例えば子どもに自身の不安や愚痴を言ってしまう母がいて、その不安や愚痴を子供が父に伝えているような場合、本来その不安は母から父に言うべきであって、子供を巻き込むのは適切ではありません。
・なぜいけないのか?
一見子どもが親をサポートするのは良いことのようにも思えますが、子どもが過度にサポートに入ってしまうと、親を支えるためにエネルギーを使ってしまうため、子どもが自分のためにエネルギーを使えなくなってしまいます。
また、親役割代行をしてきた子どもが成長し、自立する際にも問題が生じることがあります。
それは成人期に差し掛かった際に「親を見捨てるような罪悪感」にかられ、結婚などの新しい関係に進みづらくなってしまうという問題です。
ともすれば親子ともに共依存的な状況になる危険性もあるでしょう。
情緒的遮断( emotional cutoff )
情緒的遮断とは、不安の高い親に情緒的に巻き込まれた子どもが、物理的・情緒的に関わりをもたないように関係を遮断することを意味します。
親役割代行とは逆に、親のサポートもしないし、子どもとしての役割もとらずに距離をとるようなイメージです。
・何が問題なのか?
情緒的遮断の問題は、本来親に甘えたりサポートを求めたい時にそれができなかったことにより、現在のパートナーに情緒的依存を過度に求めたり、アルコールや薬物への依存、ワーカホリック、逃げ場としての結婚等につながる可能性があるということです。
・もう少し詳しく
情緒的遮断には3種類ほどのパターンがあります。
1.密着している家族メンバーとの接触を回避する
これは無視するとか、会う機会を減らすということです。
2.合法的家出
これは通学、通勤圏外の学校や職場のある場所に引っ越す等です。
3.同一化できる集団に寄与して家族を捨てる
例えば不良が集まってつるむイメージです。
もちろん不安が強い親から離れることが子どもにとってプラスになる場合もありますし、子どもの親離れの試みと受け取ることもできます(例:一人暮らしをする)
しかし、それに費やすエネルギーが大きいことは確かであり、親子の生涯にわたる関係の遮断や孤立化につながることもあります。
臨床的支援の方法
・親(夫婦)に対する支援
夫婦間の問題に子どもが巻き込まれているために、子どもが自身の問題に取り組めないことが根本的な問題であれば、夫婦が自分たちで問題解決に取り組めるように支援し、子どもは子どもの位置へ安定できるように支援します。
まだ、子どもの年齢が原家族からの自立の段階である場合は、「親の子離れ」に伴う心の整理も支援していきます。
・子どもに対する支援
子どもが親役割代行していたり、情緒的な遮断をしたということは、そのお子さんが自分の置かれた家族関係において、なんとかして生きようとした「解決行動」と見なすことができます。
親役割代行に関しては、適切ではないとしても、それを行った結果としてなんとか家族がやってこれた可能性もあるので、陰ながら支えてきた子どもの努力に光を当て、労うことで不公平を清算してあげることが支援の始まりとなりえます。
この方法は「誰かがわかってあげる」ということを狙った多世代派家族療法のナージという人の考えです。
もちろんどうしようもなかった不公平というのも存在します。例えば、親が貧乏で子どもが早くから働かなければならず、自分の人生を送れなかったと言った経済的な不公平などです。
過去に戻ってやり直すことはできませんが、お子さんの子ども時代の努力を聞いて知ってあげることでようやく自分自身の人生を歩み始めることができるかもしれません。
■ まとめ
・親役割代行( parental child / parentification )
葛藤的な夫婦関係が生じている家族において、子供がその夫婦を支える役割を取る場合があり、これを親役割代行という。
・情緒的遮断( emotional cutoff )
不安の高い親に情緒的に巻き込まれた子供が、物理的・情緒的にかかわらないように関係を遮断すること。