感情心理学

【疑問】泣くから悲しい? 情動の末梢起源説・中枢起源説・二要因説

心理学の授業で悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいという説明があったのだけど、詳しく知りたい。

こういった疑問にお答えします。

具体的には以下の感情心理学に関する学説を紹介します。

  1. 情動の末梢起源説(ジェームズ・ランゲ説)
  2. 情動の中枢起源説(キャノン・バード説)
  3. 情動の二要因説(シャクター・シンガー説)の3つ

 

皆さんは悲しいから泣くのか、泣くから悲しいのか、どちらだと思いますか?

私は悲しいから泣く、方がしっくりきます。泣くから悲しいというのは現実的な感覚としては実感しづらいのではないでしょうか。

では、心理学的にはどちらが正しいと考えられているのか紹介します。

はじめに:情動と気分って違うの?

心理学的な感情の理論に関しては3つほど有名なものがあります。

情動の末梢起源説情動の中枢起源説情動の2要因説の3つです。

ちなみにこの情動というのがいわゆる感情のことなのですが、この「情動」という言葉は厳密にいうと「情動」と「気分」という2つの言葉にわけることができるようです。

  • 情動:喜び、怒りなどの強くて一時的な感情
  • 気分:楽しい・イライラするなどの弱めだが持続的な感情

豆知識でした。では、理論を1つずつ見ていきましょう。

情動の末梢起源説(ジェームズ・ランゲ説)

これはジェームズさんとランゲさんが唱えた説なので、別名ジェームズ・ランゲ説といいます。

ちなみにジェームズさんはアメリカ心理学会の代表になったこともある超有名な人です。

名言もたくさんありまして、例えば

人間は幸せだから歌うのではない。歌うから幸せになるのだ。

とか

心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。
習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。

などがあります。

それはおいといて、この末梢起源説によれば、まず初めに生理的変化が先に生じ、その変化を脳が受信することで情動が発生すると考えられています。

この生理的変化が “泣く”とか“笑う”という身体的な変化のことです。

末梢というのは末梢神経系のことを指しています。これは中枢神経系(脳と脊髄)に対する言葉で、ようはさきっちょの部分のことです。脳より、さきっちょである身体の部分が先ということで、末梢起源説といいます。

一般的に考えられる「情動をもとに生理的変化が生じる」とは逆のケースであるため、批判も多いです。

その批判の中でも最も有力なのが次の情動の中枢起源説です。

情動の中枢起源説(キャノン・バード説)

キャノンさんとバードさんによる感情生起の仮説です。

この理論は、外部情報により脳の視床が活性化し、そこから身体反応と情動体験が同時に生じるという説です。

この考えでは、外部刺激の情報はまず脳の視床を通過し、2つに分岐します。

片方は大脳に到達し、そこで恐怖や怒りといった情動が作られ、もう片方は視床下部に到達し、そこで体の生理的変化を起こす命令が作られます。

視床は、末梢神経系に生理的変化を引き起こす命令を送りますが、末梢神経が変化する速度は比較的遅いため、情動の経験が先に起こることになります。

この説は要するに、大切なのは中枢(つまり脳)で、感情の知覚は生理的変化よりは先に生じるという理論で、末梢神経系が先であるというジェームズ・ランゲ説を批判しました。

情動の二要因説(シャクター・シンガー説)

最後は情動の2要因説です。

これは、情動の生起には生理的喚起と、その生理的喚起に対する認知的解釈の2要因が必要となるという説です。

シャクターとシンガーの実験によって示されたのでシャクター・シンガー説ともよばれています。

ジェームズ・ランゲ説の弱点は、同じ生理的変化でも抱く感情が異なることを説明できない点です(例えば面接の前で緊張するドキドキと恋愛でのドキドキは同じ心臓のドキドキなのに、抱く感情は違うことを説明できない)。

情動の二要因説は、ドキドキといった生理的喚起のあとに、自分がドキドキしているのは面接の前だから緊張しているせいだ、という認知的解釈が入ることで感情が生起するという仮説です。

これなら生理的変化が同じでも抱く感情が異なることを説明できます。

情動の二要因説は、情動の生起に関して身体反応を重視するという意味で、ジェームズ・ランゲ説を再評価するものであり、またつり橋効果やロミオとジュリエット効果など、帰属錯誤から生じる情動理論の基礎を築きました。

 

結論はどっち?

感情の理論を紹介しましたが、「泣くから悲しいのか、悲しいから泣くのか」どっちなのかについては、心理学的には決定的な結論は出ていません。

しかし、二要因説でも生理的変化を重視しているように、身体の変化というのはバカにできないのは確かなようです。

さいごに:感情心理学お勧め書籍

ベーシックな入門書は以下が良いと思います。私も持っています。

公認心理師対応の本もあります。

他にも心理学コラムの記事がありますのでよかったらご覧ください。

恋愛心理学

2022/4/7

愛と恋の違いとは何なのか 【心理学的な5つの説明】

愛と恋の違いってなんなのだろう・・・、「愛は真心、恋は下心」のような格言ではなくて心理的なところを知りたい。 こういった疑問にお答えします。 この記事では「愛」と「恋」の違いについて、心理学ではどのように考えられているのかお伝えしていきます。心理学において「愛」や「恋」は「アイデンティティ」の発達と関係が深く、青年心理学という分野で研究されている現象です。 本記事では心理学的な「愛」と「恋」の違いについて以下の5点を紹介します。 条件性と無条件性 自分の幸せか、相手の幸せか 時間的展望 身体現象の有無 恋 ...

ReadMore

恋愛心理学

2022/4/16

恋人をステータスにする心理とは?|アイデンティティのための恋愛の特徴5選

  アイデンティティのための恋愛とは 青年心理学の第一人者である大野先生によれば、アイデンティティのための恋愛とは親密性が成熟していないかつ、アイデンティティ統合の過程で、自己のアイデンティティを他者からの評価によって定義づけようとする、または補強しようとする恋愛的行動と定義されています。 つまり、自己のアイデンティティを確認するための恋愛が「アイデンティティのための恋愛」です。 例:イケメンの恋人と一緒にいると、自分がとても立派な人間になったような気がする。 このような関係にある人は相手を自分 ...

ReadMore

発達心理学

2022/6/5

アイデンティティ・ステータスの意味:モラトリアム・拡散・早期完了・達成

大学の授業でアイデンティティ・ステータスの4分類を教わったけど思い出せない… そもそもアイデンティティってどういう意味だったっけ? このような疑問にお答えします。 本記事の内容 アイデンティティ・ステータスとは アイデンティティ・ステータスの4類型 アイデンティティについて本格的に学ぶための鉄板書籍+学生特権   私は児童精神科で心理士をしており、青年期のクライアントさんのカウンセリングをしています。大学時代に発達心理学・青年心理学の講義を取り、アイデンティティについて学びました。 そんな私が解 ...

ReadMore

性格心理学

2022/3/5

性格の【特性論】とは|オールポートの言葉の仕分けがルーツ

性格の捉え方は大別すると「特性論」と「類型論」2つに分けられます。今回の記事では「特性論」のメリットデメリットと特性論のルーツである「オールポートの研究」を紹介します。 類型論については以下の記事をご覧ください。 【血液型性格診断の元祖】性格の類型論とは?【ガレノスの4気質説】 皆さんは「自分の性格を説明してください」と言われたときにどう答えますか? 「やさしい」や「おおざっぱ」などの特徴を伝えるでしょうか、それとも「誰々のような性格」や「A型っぽい」などカテゴリーに分けて伝えるでしょうか。性格心理学では ...

ReadMore

文化心理学

2022/3/6

価値観の違いっていうけど価値観ってどんな意味? 比較文化心理学による説明

カップルが別れる原因としてよく言われるのが“価値観の違い”というやつですが、価値観って何か説明できますか? 今日はそんな漠然とした価値観ということを比較文化心理学に基づいて解説していきます。 ■価値観とは何なのか ちなみに価値観という言葉を辞書で引くと以下のように書いてあります。 “いかなる物事に価値を認めるかという個人個人の評価的判断” ※出典:Weblio(大辞林) 意外とよくわからないですね。 比較文化心理学で価値観を説明する際に使われるのが、Hofstedの文化概念のたまねぎ型モデルというやつです ...

ReadMore

  • この記事を書いた人

モトセ

臨床心理士です。最近は不登校支援に力を入れています。お気に入りやtwitterフォローお待ちしています。 noteでは不登校のお子さんに対する具体的な関り方をプログラム形式で書いています➝noteはこちら

-感情心理学