この記事では産業カウンセラー試験合格を目指す方や、産業カウンセラーに合格して組織や企業で心理的支援をするカウンセラー、特に「臨床力」に不安がある向けの書籍を紹介していきます。
資格としての「産業カウンセラー」は「一般社団法人 日本産業カウンセラー協会」が認定する民間資格です。協会が主催する産業カウンセラー養成講座を受講することで受験資格が得られます。2022年3月時点では受講料に教材費が含まれているため、産業カウンセラー試験対策として世に出回っている対策用のテキスト、問題集、過去問は無いようです。
確かに資格試験に合格するだけであれば協会の教材で事足りるかもしれません。しかし、いざ現場に出て産業領域でカウンセリングやコンサルテーション、メンタルヘルス研修やハラスメント対策といった実践を行うために十分かと言えば、まず不十分だと思います。
一言で言えば、産業カウンセラー試験に合格しただけでは「臨床力」「実践力」「応用力」などに不安が残ります。
私はある組織内で心理職として支援の経験がありますが、基本レベルの知識では現場で生じる様々なケースに対応しきれなかった実感があります。しかし、経験が少ない期間は誰にでもあります。そこをどう乗り越えるか、スーパービジョンを受けるのはもちろんですが、経験の少なさを補うための知識は持っておいて損はありません。
前置きが長くなりましたが私自身が参考にした「最低限必要な実践的な知識が得られる良書」を紹介いたしますので参考になれば幸いです。カテゴリーとしては「うつ病」「新型うつ」「発達障害」「見立ての練習」の4つに分けて紹介します。
クライシス・カウンセリング
この本は“「死にたい気持ち」を持つ人、および悲惨な出来事(参事ストレス)直後の人に対するカウンセリング”である「クライシス・カウンセリング」(定義は書籍内のものです)の本です。著者は元陸上自衛隊の心理幹部であり、現場で培ったスキルがすさまじいようで、非常に良書です。
私が思うこの本の最大の良い点は、うつ病の人に対するカウンセリングスキルを学べる点です。
人が原始人の時代からもつピンチに陥るとうつ状態で身を守る、という例えは秀逸で、非常にわかりやすいです。
また、クライアントの味方になるための「メッセージコントロール」(会話の仕方)についても非常に具体的に書いてあります。このメッセージコントロールも秀逸で、大学院の傾聴の授業でもこれやったらいいのでは?と思うくらいクライアントに寄り添う具体的な方法が書かれています。
独自の図解や用語が豊富に掲載されており、どうやったら一般の方が理解しやすいかを考え抜いている感じも素晴らしいです。お勧めします。
100のワークで学ぶ カウンセリングの見立てと方針
カウンセリング初心者にとって実際のケースを見立てて方針を決めることは簡単なことではありません。この本はそんなカウンセリングの「見立て」について自信が持てない方に大変おすすめな書籍です。
介入ではなく「見立て」についての100のワークと回答例があるという問題集のような書籍であり、書き込みながら学習できる点も秀逸だと言えます。
すぐ会社を休む部下に困っている人が読む本 それが新型うつです
この本はいわゆる「新型うつ」と呼ばれる従来型と異なるうつに関する本です。こちらも新書なので、コンパクトにまとまっています。著者は臨床心理士です。
新型うつというのは病名としては存在せず、定義が定まっていませんが状態像を一言で言えば「なんでそんなささいなことで出社できなくなるの?というくらいストレス耐性の弱い方」です。
この本では「回避性」「自己愛性」「他責性」が新型うつの3大特徴と説明しており、非常にわかりやすいです。また、新型うつの職員に対するカウンセリング事例も記載があり、具体的にイメージして学ぶことができます。新型うつ関連はこの本から入るのがおすすめです。
最新版 大人の発達障害[ASD・ADHD]シーン別解決ブック 実用No.1シリーズ
この本は発達障害支援で有名な「司馬 理英子」先生の著作です。発達障害の基本的なことを理解するのに大変役に立ちます。図解も豊富で読みやすく、具体的な対応方法も書いてあるので発達障害の職員に対する対応を考える際の基礎知識として持っておいて損はない良書です。
うつと発達障害
大人の発達障害についての本です。当事者の体験談ではなく、現役の医師が書いています。専門家目線の本です。
発達障害の「ADHD」と「ASD」、そして「うつ病」について、特徴がわかりやすくまとめられています。ADHDとASDには類似した症状もありますが、図解があるので理解しやすいです。
新書サイズなのでコンパクトにまとまっていることも良いところ。発達障害理解のためにはまず持っておいて損はありません。
当サイトのメンタルヘルス関連記事
私の実体験をもとに書いた産業メンタルヘルスに関する記事群があります。実践経験で感じたことを中心に書いておりますのでこちらも参考にしていただけると幸いです。