この記事では知能検査であるWISCやWAISの結果の見方や発達障害との関連について紹介いたします。
実際に検査を受けられた方に加え、検査実施者として結果をフィードバックする専門家の方にも役立つように書いたつもりですので、ご覧いただけると幸いです。
WISC・WAISとは
WISCの正式名称は「Wechsler Intelligence Scale for Children」です。「ウェクスラー式の知能検査子ども版」という意味になります。WAISの正式名称は「Wechsler Adult Intelligence Scale」です。「ウェクスラー式の知能検査大人版」という意味になります。
ウェクスラーというのはこの検査を作った人の名前です。ウェクスラー式知能検査は世界中で使用されている最も一般的な知能検査と言って良いでしょう。
WISCもWAISも何回かバージョンアップ(進化)しています。アップするたびに、後ろにつく数字が上がっていきます。日本における最新版はWISC-V(ファイブ)とWAIS-Ⅳ(フォー)です。
※2022年2月14日修正
対象年齢
- WISCの対象年齢:5歳0か月~16歳11か月(WISC-V)
- WAISの対象年齢:16歳0か月~90歳11か月(WAIS-Ⅳ)
何がわかるのか
当人の知的能力が同年代の平均と比較してどの程度の水準か、ということがわかります。
知的能力は知能指数(IQ)で示されます。ウェクスラー式検査の特徴はその人の全体的な力である【総合力】に加え、4つの【指標得点】という特定の能力を測定できることです。
考え方としては、受験勉強における模試の偏差値に似ています。全教科トータルの偏差値も重要ですが、実際問題重要なのは、国語や数学、英語など、個別教科の偏差値だと思います。理由は、自分の得意なところと苦手なところを知る必要があるからです。ウェクスラー式の知能検査も模試の偏差値と同様に、強みと弱みがわかるところが特徴です。偏差値は50であれば平均ですが、知能指数は100で平均となります。
ゲームが好きな方はロールプレイングゲームにおけるパラメータの考え方で理解しても良いかもしれません。例えば、ポケモンであれば、攻撃力、防御力、すばやさなど個別のパラメータがありますが、それが指標得点のイメージです。
ちなみに田中ビネー式知能検査は主に総合力のみを測る検査です。
以下で全検査IQと各合成得点について紹介いたしますが、WISCはWISCⅤから主な指標が5個になったため、以下はWISCⅣに該当する解説になります。
全検査IQと指標得点(言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度)
全検査IQ
全検査IQを一言で言うと、その人の知能の【総合力】です。総合力ですので、大まかに見てその人が同年代より知能が高いか低いかわかる、というイメージです。
例えばカラオケに例えると、採点モードで出た点数が全指数です。80点とか、出ますよね。ですが、精密な採点になると、音程があっているか、リズムは取れているか、ロングトーンができてるか、声の強弱はつけているかなど細かい項目に別れます。そうすると、音程はあっているのでそこは95点だけど、ロングトーンは続かないので65点のような、細かな結果が出たりします。この細かな結果が次に説明する各指標得点です。
言語理解
言語理解指標を一言で言うと、言葉による情報を理解し、それを基に考え推理し、その結果を言葉で表現する力です。言葉による入力→処理→出力の力とも言えます。言葉による情報とは、会話等の話し言葉や、文書等の書き言葉の両方です。
【日常場面での例】
- 教科書などの文章を読んで内容を把握する
- 言葉で説明を受ける
- 自分の言いたいことを適切な言葉にして伝える など
知覚推理
知覚推理指標を一言で言うと、言葉以外の情報を理解し、それを基に考え推理する力です。言葉以外というのは、人であれば【表情】や【動作】のことで、人以外であれば、【イラスト】や【図形】、【物の配置】、【風景】などです。
「知覚」という言葉になじみがない人が多く、説明しづらい指標です。なぜ言語理解は言語推理じゃないのか、なぜ知覚推理は知覚理解じゃないのか気になりますが、あまり気にしないでいいです。要するに、言葉の情報から考える力が言語理解で、言葉以外の情報から考える力が知覚推理、その違いだと思ってください。
【日常場面での例】
- 図形や地図、設計図の理解。
- その場の雰囲気から暗黙のルールを察する(慣れない場面での適応力)
- 物の配置から何をどこに置くか想像するなど。
ワーキングメモリー
ワーキングメモリーを一言で言うと、一時的な記憶力と、一時的に記憶した情報を使って作業する力です。例えば、「あなたはこの記事を読んだらtwitterでリツートし、スマホを置いてお水を飲み、それがすんだらお風呂に入り・・・」みたいな指示をされたとしましょう。その場では覚えていても、リツイートしている間に、次何するかを忘れてしまうかもしれません。ワーキングメモリーが高い場合、一時的な記憶を保ちつつ、様々な作業ができると言えます。逆にワーキングメモリーが低いと、一度聞いてもすぐ忘れる、やっているうちに指示を忘れ、目の前のことに注意を奪われるといった不注意な特徴が出やすくなります。
【日常場面での例】
- 暗算・計算する
- 指示を聞いて記憶しておきながら順序通り実行する
- 何かするときに次はあれやってこれやってと頭のなかで計画を立てて実行する など
処理速度
処理速度を一言で言うと、情報を把握し、その情報をもとに正確に体を動かすスピードのことです。イメージとしては、「瞬発力」に近いです。ただ身体を動かすだけではなく、何かを見てから即座に判断して手を動かす力のため、【目と手の協応】や【目と手の連動】の力などとも呼ばれます。
【日常場面での例】
- 黒板の文字を板書する(目で見て書き写す言葉を判断して手を動かす)
- チラシの中から目当てのものを見つける
WISC・WAISの結果所見の解釈方法を3ステップで解説
ステップ1:全検査IQから総合力を把握する
例えば全検査IQが「120」となれば、総合的に見て高い知能を持っていると言えますし「60」となると、軽度知的障害の範囲である等と判断します。
ステップ2 指標得点のばらつきを把握し、得意・不得意を明らかにする
例えば、言語理解や知覚推理が120(高い)にもかかわらず、処理速度が70だったとします(極端な例ですので、実際そういう人はあまりいません)。
その人の場合、制限時間のないじっくり取り組める課題では高得点を出せるでしょう。しかし、短時間でてきぱきと処理する必要がある課題の前では力を発揮できず、普段のパフォーマンスとのギャップを感じさせると思われます。このように、ウェクスラー式を受ける=指標得点のばらつきを明らかにすること、と言っても過言ではありません。
WISCやWAISで重要なのは、受験者の得意なことと、苦手なことをはっきりさせることです。そのためには、各指標得点の数値を算出し、グラフにして、強みと弱みを理解する必要があります。大体の検査報告書には、以下のようなグラフがついています。
このグラフは、全検査IQが100、言語理解が120,知覚推理が80、ワーキングメモリーが100、処理速度が90という結果のグラフです(実際の結果ではありません)。ちなみに、WISCやWAISのIQでは、100が同世代と比べて平均という意味になります。この結果の場合、総合力で見たら平均だけれども、指標得点にばらつきがあると言えます。
ステップ3:知的能力の点から、受験者と家族の困りごとの背景を推測し、支援方法を伝える
上記のグラフでは、【言語理解】は高い一方で、【知覚推理】は平均の下という結果です。そこから、言語情報の理解やそれを基にして考えることは得意だけれども、視覚的な情報を理解したりそれを基に考えたりすることは苦手、という解釈ができます。
臨床像としては、言葉は達者だけれども、その場の雰囲気を察するのが苦手で、慣れない場面では戸惑って縮こまってしまう、そんな人かもしれません。
どういった困り感があるかはケースバイケースですが、知能検査の結果からは上記の見立てが考えられますので、支援方法の例として、本人が戸惑っているときには言葉でその場の状況や不明点を説明し、見通しを持たせて安心させる等が考えられます。
このグラフは仮想のものです。実際の結果解釈に当たっては、臨床心理士等の専門家の指導を受けてください。
知能検査の結果と発達障害の関連
結論から言いますと、知能検査の結果のみで、発達障害を診断することはありません。
確かに発達障害の方は、ウェクスラー式知能検査の指標得点にばらつきがある場合が少なくありません。そのため、ばらつきがある=発達障害という見方が広まったのだと思います。
発達障害の診断には、幼少期から、発達障害の特徴を示すエピソードが存在する必要があります。なぜなら発達障害は、脳の構造上の問題による症状なので、幼少期から出現しないとおかしいのです。そのようなエピソードや知能検査の結果、話してみた印象等を総合し、診断基準と照らして医師は診断を下します。
そもそも発達障害というものは0か100かで判断できるものではなく、スペクトラム(連続体)として捉えるのが一般的になりました。例えばインフルエンザであれば、検査して陽性・陰性で白黒はっきりできます。しかし発達障害は、明らかに発達の問題がある人から多少は発達障害の傾向がある人まで、さまざまです。そのため、グレーゾーンという言葉が使われます。
WISC・WAISに関する質問色々
知能指数は年齢とともに伸びるのか?
結果をお伝えするときによく聞かれることですが、「この子の知能は将来伸びるのでしょうか?」という質問です。私も親の立場なら気になると思います。一般的には、言語理解のような知識が関係する指標は勉強で伸びる可能性がありますが、他の指標はあまり変わりません。もちろん頭を使い続けたり、専門的なトレーニングによって伸びることはありますが、何もしなければ、加齢に伴ってのみ上昇することはあまり考えられません。
別の記事で解説しておりますのでそちらもご覧ください。
検査をもとに指導しても変わりません、どうしたらいいですか?
その子の強みをどう伸ばすか、弱いところをどうやって指導するかだけでなく、どの点を褒め、どの辺を多めに見るか、そういったことを見極めるために使っていただければと思います。
知能指数だけで日常の行動を説明できますか?
それは無理です。
能力と性格を分ける必要があるからです。例えば、能力があっても、ある特定の場面で緊張しやすく、力を発揮できない人もいます。性格検査を実施するとわかるのですが、性格検査をすると、その時は困りごとのすべてを性格で説明しようとしてしまいます。人はそういうもので、ある検査の結果で今ある問題の全てを説明しようとするものです。
知能検査もその人の知的な側面を測っているにすぎず、それだけで日ごろの問題行動や困りごとの全てを説明したり、解決できるわけではありません。
おすすめの書籍はありますか?
保護者のかた向けは以下の本がおすすめです。Amazonの評価も非常に高いです。
検査実施者の心理士には以下の本がおすすめです。私が出会った心理士の方はかなりの割合で持っておられました。
他にも心理検査について記事がありますので是非ご覧ください。