この記事ではASD(自閉症スペクトラム障害)の症状を私なりに5つに分けて解説します。
結論から言うと5つとは「①社会性の障害」「②コミュニケーションの障害」「③イマジネーション(想像力)の障害」「④こだわり(限定された興味と反復行動)」「⑤感覚過敏」です。
最初にASDの特徴や定義の変遷について簡単におさえてから症状グループの解説に進みます。
症状だけ知りたい方は定義の変遷は飛ばして大丈夫です。
具体例もあるので当てはまりをチェックすることもできますが、チェックリストではありませんのでご了承ください。
ASD(自閉症スペクトラム障害)の症状について
ASD研究の歴史
1943年:レオ・カナー「情緒的接触の自閉的障害」論文
自閉症の4つの共通特徴として以下が示される。
- 人生早期からの極端な自閉的孤立
- コミュニケーションのための言語使用が見られない
- 同一性保持への強迫的欲求
- 物事を取り扱う時の巧みなスキル
1944年:ハンス・アスペルガー「小児期の自閉的精神病質」論文
アスペルガー症候群という名前が生まれる。
1979年 ローナ・ウィングのキャンバーウェル研究所
「自閉症スペクトラム」という言葉が生まれる。いわゆるウィングの「3つ組の障害」と解説される。
- 社会性の障害
- コミュニケーションの障害
- イマジネーションの障害(こだわり)
2014年:DSM-5で診断基準が改定される
- 複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること
- 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること(情動的、反復的な身体の運動や会話、固執やこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さなど)
- 発達早期から1,2の症状が存在していること
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
- これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されないこと
ひとまずざっくりと変遷をまとめました。ざっくりすぎというツッコミには謝るしかありません。
ASDの症状に関しては私もいくつかWebサイトを見ましたが、症状をカテゴライズせず、箇条書きにしているサイトが多いなと感じました。
自分なりにわかりやすく整理する意味もこめて、今回は5つの症状に分類しています。私の個人的な見解なので、ご了承の上お読みください。
①社会性の障害
ウィングの3つ組の1つ目のことです。具体的な例は以下です。
- 視線があいにくい。表情が乏しい。
- 社交的な場を楽しめない。行かない。どのように振る舞えばいいのかわからない。
- 人に話しかけること、友だちを作るのが苦手。
- 人に関心がない(乏しい)。人より物に興味がいく。
- 社会的な暗黙のルールがわからない。
- 場違いな行動をとる。
- 社会的に重要であることがわからず共通認識がもてない。
会話を始めること及び社会で共有されるルールを理解できるか、という意味で「社会性」という感じです。
ASD症状のグループ分けをやってみて難しかったのがこの①社会性の障害と②コミュニケーションの障害の違いでした。最初は同じ事を言っているように見えました。似てるのです。多くの人がそう思っていたのか、DSM5では社会性とコミュニケーションの障害はセットになりました。
社会性の障害を私なりに一言で言うと、「人と関係を築く力に乏しい」ということです。
対人関係を築くには社会のルールを理解し、話しかけたり、話しかけられたりしてコミュニケーションをスタートしないといけないのですが、そこが難しいということです。
自閉症は「自ら」「閉じる」症状と書きます。なにから閉じるかというと、社会関係から閉じているわけで、ASDのコアなイメージはここだと思います。
特に重いASD、いわゆるカナー型の自閉症は本当に閉じてるなーという印象を抱かせます。見たら一発でわかります。
②コミュニケーションの質的障害
具体例は以下です。
- 曖昧な表現の理解が苦手(「少しゆっくり」、「だいたいでいいから」等)
- 相手の発言の言葉じりをそのまま理解し、裏に隠れている意味を読み取ることが苦手(目の前のことからやっていきましょう→目の前に何もありませんと返事をする等)
- 比喩や冗談、ユーモアを理解することが難しい。
- 無表情で話す。表情やテンションで感情を表現するのが難しい。
- 一方的にまくしたてるように話す。結果、会話が成り立たない。(相手がつまらなそうにしているというメタメッセージがを受け取るのが苦手。こだわりが強くてずっと語ってしまう)
- 会話中に自分が話す順番なのかわからなくなる。
- 相手の心情を表情や言葉のニュアンス(非言語メッセージ)から察することが難しい
- その場の雰囲気を読めずに場違いな発言をする
- なれなれしい。会話中の距離感が近すぎる。
ウィングの3つ組の2つ目です。私なりに一言で言うと「会話を成立させる力が弱い」ということです。コミュニケーションを持続させる力の障害と言っても良いです。
大雑把ですが、①社会性の障害は会話を始める前の話で、②コミュニケーションの障害は会話がスタートしてからの話だと分けると簡単なのかなと思います。
③イマジネーション(想像力)の障害
イマジネーションの障害の具体例
- 先のことを想像することが苦手
- 予想していないことが起きると何も考えられなくなり、パニックを起こす。
- 会話をしているときに他人の気持ちを想像して理解することが難しい。
- 自由に何かを言ったり書いたりして良い場面が苦手で苦痛(雑談など)。
- 場の空気が読めない発言をするのは言ったらどうなるかイメージできない(しない)から
これはウィングの3つ組の3つ目にあたります。
イマジネーションの障害はいわゆる「こだわり」と同じと解説されることが多いです。
しかし、言わせて欲しい。
「こだわり」と「イマジネーションの障害(想像力の障害)」は本当に似ているのか?と。
次に起こることを想像することが難しく、自分なりの見通しを持つことが出来ないために同じパターンを繰り返し行うこと(こだわり)で安心感を得るという説明が良くされますが。
例えば「車がめっちゃ好きでトヨタの車の車種全部言える」とか、「毎日同じ服を着る」とか、それって想像力の欠如とあまり関係ないような気がします。もちろん結び付けようと思えばできるのですが、慣れないと別物に見える気がします。ここでは分けて書きました。
ちなみに医師はイマジネーションの障害という言葉をよく使う気がします。カルテに書かれているのをよく見かけます。
コメディカルや教師の方は想像力の障害という言葉をあまり使わず、「こだわりが強い」という言う人が多い気がします。
④限定された興味と反復行動(こだわり)
いわゆる「こだわり」です。具体例は以下です。
- 自分なりのやり方やルールにこだわる。
- 決まり切った手順を守ろうとする。
- 好きなものや興味が限られている。
- 課題では細部にとらわれてしまい、最後まで物事を遂行することが出来ない
- 興味がないことは気にしないため、ケアレスミスや物忘れが生じる。
- 決まった手順にこだわるため、作業AとBを行き来するようなマルチタスクが苦手(マルチタスクは臨機応変さが必要なイレギュラーだから)。
- もの、数字、データにこだわりがあり、記憶している。
⑤感覚過敏
具体例
- 感覚の過敏さ、鈍感さがある(うるさい場所にいるとイライラしやすい、洋服のタグはチクチクするから切ってしまう)
- 煩わしい音が気になって集中することができない。
感覚世界の未分化はASDの方特有の世界です。
心的外傷等による過覚醒でも過敏にはなりますが、ASDの方は幼少期から、というか生まれた時からずっと持っているのが特徴です。